第5話「騎士警団」
ナツナの目の前に現れた男の人、いや同い年くらいのアバターだから男の子だろう。ナツナは呆気に取られているが先にユキカがナツナに駆け寄る
「大丈夫なっちゃん!?怪我は!?」
「大丈夫、リタイアモニターも出ていないし」
ナツナはユキカが差し出してくれた手を取り立ち上がる、白いマントの男の子は聖剣を背中にある鞘に収めるとこちらに振り向く。
「あぶないとこだったすね、ここには爆裂石があちらこちらにあるので気をつけた方がいいっすよ」
日常的にこういうことに慣れているのか、冷静で落ち着いた口調で話しかけてくる。ナツナはスカートや鎧についた砂を手で払って
「ありがとうございます、貴方が助けてくれなかったら私は今頃リタイアしていました。」
「いえ、俺はたまたまこっちに来ていたのであの回避の仕方をしていなければさすがに間に合ったかどうかわからないっすよ。」
照れくさそうに頬をポリポリ人差し指でかく、するとユキカはナツナの前に出て男の子に手を差し出す。
「私の親友をありがとうございます!私はユキカ、君は?」
少し差し出された手を見てから、男の子はユキカの手を握り握手の形を作った。
「俺はショウ、よろしくっす。」
続いてナツナも名乗り出て自己紹介を終えるとショウは二人に質問をした。
「ユキカにナツナはここで何を?」
「金閃石を探しに来たんです、でも中々見つからなくてここを探していたら今に至った訳なんです。」
ユキカはここに来た経緯を詳しく話したら、ショウは苦笑いをする。苦笑いのショウを見た二人は首を傾げる、苦笑いの理由をショウが話す。
「ここにある金閃石は少し前からある盗賊アバター達が持っていてしまったみたいっすよ、ここに出現する金閃石は1ヶ月待たないとでないっす。」
「えぇー!?そ、そんなぁ………あれが無かったら聖剣セット手に入らないよー……」
その話を聞いたユキカは地面に崩れるように膝をついた。崩れ落ちたユキカをよそにナツナは疑問に思った事をショウに聞いてみる
「盗賊アバターって、ここは誰でも自由に取れる場所じゃないの?私達も許可は得てないような」
「あー盗賊って言うのは他人のアカウントを乗っ取った奴を指すっす、そいつらを撃退するのが……」
ショウが全てを話し終える前に誰かがショウの後ろから歩き来ながら話しかけてきた
「我ら騎士警団の仕事ってわけだな!がはは!」
「団長じゃないっすか、こっちには盗賊アバターは居ないっすよ」
すごく筋肉マッチョで、ヒゲをはやした見た目はオッサンの男がショウの頭をクシャクシャっとしながらユキカ、ナツナに話しかけてきた
「お嬢ちゃん達は何をしに来たんだ?ナンパか?」
「ナンパなんかしてませんっ!!先ほどショウさんに話をしましたが。」
団長と言われているオッサンにナツナはキレながら否定し、事情を話すと。
「ふーん、なるほどな聖剣セットの為にか。まぁ諦めるこった!金閃石はここにはねぇしな!がはは!」
団長は大笑い、それを見たユキカは団長の目の前まで出てずいっと顔を近づけ
「諦めなければ見つかります!いや見つけてみせます!」
真剣な眼差しを見た団長は目をつむりながら
「残念だが本当にない、探石レーダーには反応はないしな。というかそんなに聖剣セットがほしいのかい?」
「当たり前ですよ!聖剣セットを手にして必ず勇者になると決めたんですから!」
団長はユキカの勢いにすこし後ずさる、するとまた馬鹿笑いをする団長
「がはは!そうかそうか!勇者にか!がはは!」
「何がおかしいんですか?!マジなんですよ!ユキカになりたいんです!」
ショウやナツナはそんな二人を外から眺めていた。
「ユキカは本当に勇者になりたがってるんです、だからそのために一緒に探してあげたいんです。」
「なるほど……でも大丈夫みたいっすよ」
「え?」
ショウは団長に駆け寄り、肩膝をついて頭を下げる。団長はユキカと話すのを止めてショウに目を合わせる。
「この二人を騎士警団に入団できないっすか団長?」
「お前はたまに頭良くなるからこぇんだよ、理由はなんだ?」
「同じ正義に理由はないっす、それなら大丈夫っすよね?」
「全く……わかったぁ!お嬢ちゃん達ワシの下に付け!」
「「はぁ!?」」
あまり突然すぎることに軽く真っ白になるが直ぐに意識をもどす
「い、いきなり過ぎます!それになんで私達が?」
ナツナは団長に質問をぶつける、団長は平然とした立ち姿で。
「同じ正義に理由はないと、ショウが言ったからな!まぁ、タダでとは言わん!1つだけ願いを聞いてやる」
またも飛び抜けた質問に対しての答えにナツナはパニックを起こしそうだがユキカは
「勇者を目指すなら悪党も倒さなきゃいけない、なら願いは聖剣セット!!」
「アンタはほしいだけでしょ?!また考えなしに決めるのはダメよユキ!」
「考えなしって訳じゃないよ?だって勇者に近づいたわけだし、なっちゃんだって仲間が必要だって言ってたじゃん」
ユキカの珍しい言葉に思わず納得してしまうナツナ、はぁ、とため息を吐くが
「直ぐには決められません。一日だけ時間をください」
「わかった、なら明日サウゼルト中心噴水広場で待ってるからな!」
じゃあな!とショウと団長は去っていった、よくよく気がつくと爆発で壁に穴が空いていてそこから光が漏れていた。出口が即席でできてしまったようだ
「なっちゃん、今日はゆっくり話し合うしかないね。」
「もちろん、騎士警団。サウゼルトで大きな組織なんだからやっぱりしっかり考えないと」
爆発で空いた穴から二人は鉱山を脱出した。もちろんクエストは失敗に終わったことを武器屋のシャオロットに報告すると
「ま、知ってたけどなウチ」
「なんで黙ってたの?!ひどいよっ!?」
「んなもんユキカの本気具合を確かめるために決まってるやないの、しっかしよー行ったなあの鉱山。ウチは無理無理、で?聖剣セットはまだお預けやな」
そこに金閃石がないことを知っていた上にまだ取ってこい的な発言に
「くっ!シャオロット!金閃石なんて取れっこないわよ!」
「ふふ、悔しいんなら買えばええだけやん?ん?」
挑発してくる金髪対ツインテール、ナツナは頭に来たのかユキカの腕を掴み
「いくよ!ほら歩いてよ!」
「痛い!痛いってばなんなのなっちゃん!?」
ユキカはそのまま引っ張られ、二人は店から出ていった。シャオロットはカウンターに座る
「はぁ、まさか聖剣セットに目を付けるプレイヤーが居るとはなぁ……まぁ仕事はしたし?あとは『団長』に返事するだけと違うん?」
誰に向かって言ってるわけじゃない、だが店には確実にその声が響いた。
ユキカとナツナは繁華街のベンチに座る。
「どうしたのなっちゃん?いきなり引っ張りだしてさ」
「明日、明日団長に返事するよ」
「やっぱり断る?私はなっちゃんを尊重するけど」
「いや、受けるよ。」
ユキカは一瞬フリーズするが、そこから笑顔になる。
「じゃあ!聖剣セット手に入るよ!ちょっと簡単過ぎるけど金閃石よりは楽だよ!」
「えぇ、そしてシャオロットを見返してやるわ!見返すのよ!あはははは!!」
「な、なっちゃん?なんか怖いよ!?」
「シャオロットに勝ったわぁ!あはははは!」
ナツナの笑い声は繁華街に響きわたった。