第4話「二人で突貫!!」
トゥイルド鉱山の入口を見つけたユキカとナツナは、中に入らずに少し様子を見ていた。中を覗けば真っ暗で風がこちらに向かって吹いている、冷気に近くて少し当たれば身体がブルっとする。
大した準備もせずに乗り込んだので二人は後悔していた。
「ね、ねぇ?この中に入るんだよね?絶対絶対寒いよね?」
ユキカは身体を両手で抱きしめながら話す。ナツナは辺りを見回したり手持ちアイテムを確認したりする。
「このアイテム数だけじゃ心配なんだよね、ユキカはどう?」
ナツナはユキカにアイテム数はいくつあるのか聞いてみる。
「松明3本、開腹アイテムが10本とスタミナ開腹が5だよっ」
ナツナは頭を抱える、予想より種類や数が足りないのにカルチャーショックを受けたみたいだ。
「出直そうよ、これじゃモンスターに殺られてクエスト失敗になっちゃうよ?」
「えぇー!?今更戻れないよっ!このクエスト明日までだよ?鉱山ってかなり広いんでしょ?!」
クエストは明日まで、鉱山に入ってしまうと出られなくなる。というよりユキカは早く鉱山に入りたいみたいだ、ナツナは『うー、うー』と唸りながら考える。
「気持ちはわかるけど私達2人だけだしこのままだと石は愚か失敗しちゃうんだよ?」
ナツナの言っていることも正しいからか、ユキカまで唸る。しかしこうしていても時間は過ぎていく、するとユキカは鉱山に入っていく。
「ちょ!?話聞いてた!?」
「冒険なんていつどこで何が起きるかわからないんだよ?アイテムがあっても無くても一緒だよ!私は行くよ!」
ユキカはずんずん先へ進み、ナツナの目の前から居なくなった、ナツナは慌てて追いかける。
「ま、待ちなさいってば!!ユキぃぃ!」
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鉱山の中は真っ暗だ、ある程度進むとちょこちょこ壁や天井に穴が空いた場所から光が漏れて薄明るい状態が続いているのがわかる。
「ここなら松明はいらないねっ、切削用のシャベルとピッケルを用意!じゃぁーん!」
ユキカはやる気満々を表す為に、右手にシャベル、左手にピッケルを構えた。ナツナは鉱山内のマップを展開するが……
「じゃぁーん!じゃないって、予想通りっていうかマップには細かく鉱山内部の道は表示されない訳ね……出口だけ表示されてるし、大丈夫かなこれ」
「大丈夫大丈夫!ささっと見つけてささっと聖剣セット手に入れて帰ろ帰ろ!」
ナツナとは正反対の考えで、何とかなる精神を貫いているようだ。ユキカはさっそくピッケルでガツンガツン壁面を削り始める、ここからは時間と体力の勝負だ。
「仕方ない、諦めて切削していきますか。よいっしょ!!」
ガツンガツンと二人で切削開始、たまに他のプレイヤーが通り過ぎる度に。
「何あれ」
「女の子二人でがんばるよね?」
等と他のグループがヒソヒソクスクスしながら歩いていく。ユキカには全くその声が届いてはいないが……
「何よ何よ、人の気も!知らない、でぇ!!」
ガツンガツンと叩きながら愚痴を吐くナツナ、ユキカは楽しそうにピッケルやシャベルで壁面を削っていくが………
「こ、この辺りには無いのかも。他を当たろうよなっちゃん!」
「あ、あんた元気よね……」
初めて30分でナツナは疲れ始めていた、そして場所を変えたり休憩したり、また場所を変えたりして繰り返すこと2時間とちょびっと。
「………カエリタイ」
「アンタが引き受けたんでしょーが!!」
最初は元気だったユキカも2時間が限界だったようだ、ユキカはポイッとピッケルを投げ捨てて、ドサっと地面に倒れる。
「金閃石とかホントにあるのかなぁ、怪しくなってきたよ。全く」
「あのねぇ、はぁ。まぁ気持ちは分かるけど金閃石は存在してるしこの鉱山にある、ただなかなか見つからないわよ?どうする?ギブアップする?」
ナツナは倒れ込んだユキカを見下ろしながらクスッと笑う。ユキカはナツナの顔と天井を交互に見ながら、呟き始める。
「私、誰かを助けられる勇者になりたいんだよね。昔見た戦隊物を見てからなんだけど」
ナツナもユキカの横に寝転ぶ、『ふーん、それで?』と続きを話すように促す。
「だってさ、戦隊物って負けたりするけど最後は必ず勝つよね?勇者は絶対に諦めたりしないんだなって思って。だから私も諦めたくないんだ、諦めなければ必ず叶うんだよ。」
黙って聞いていたナツナがそれに対して話始める。二人の会話は洞窟内に反響しているが気にしない。
「でも、諦めずにがんばっても叶わない時もある。今回のもそうかもしれないよ?」
それを聞くとユキカはガバッと起き上がる、ナツナはビックリして釣らられて起き上がる。
「今の、今なっちゃんが言った言葉それは違うよ、諦めずにがんばっても?違う、それは何処か諦めちゃったんだよ。だから叶わなかった、ホントに諦めてないなら夢はどこかで叶う。私はそう思う」
「ユキ………」
ユキカは昔から人一倍努力して、何事も諦めずに体当たりでやってきた。ナツナの過去のことにもよく首を突っ込んでは無茶をした、そんなユキカをずっと見てきたナツナはどこか眩しい存在に見えたのかもしれない。
「ぷふっ、あはははっ!」
「えぇー!?な、なに?!」
「い、いや。ふふっ!なんでもない!」
急に吹き出したナツナに目を丸くするユキカ、ナツナは立ち上がり手を差し出す。ユキカはこれなに?という顔をする
「さぁ、いこうよ。聖剣セット欲しいんでしょ?」
ナツナの手を少し見てから手をつかみ、立ち上がる。お尻や背中の砂を払いのけピッケルとシャベルを両手に持つ。
「もちろん!聖剣セットを手に入れてかっこいい勇者になるんだもん!」
例え果てしなくともこの子がいれば何でもできそうな気がし始めるナツナ。2人はさらに奥に進み歩くと少し広い場所に出た、洞窟の真ん中部分みたいだ。一度立ち止まりマップを確認すると
「確かに真ん中だけど、半分も進んでないみたいね。似たような広い場所があと4つある」
それを聞くと一瞬元気が無くなるユキカだが、自分の頬をパチンと両手で叩き気合いを入れる。
「なら早く終わらせちゃお!えーと、あそこにしようよ。なんか明るい石が一杯敷詰まってるし!」
ある1箇所だけに集中して光石が埋まっていた。ナツナはそれを見て疑問に思う、ユキカはそれに近づきピッケルを握った手を大きく振りかぶる時だった。
「光石?洞窟、集中…………!?!?待ってダメぇ!!!」
「えっ?…………きゃぁ!!!」
ナツナはユキカに向かって走り出すが、握ったピッケルの方が断然早くその石にガツンと一撃を入れると、ナツナの目の前で爆発が起きる。ユキカは爆風に吹き飛ばされるがナツナが早めに走り出していたのでなんとかキャッチした。
ユキカは何が起きたのか理解に時間が掛かったがようやくわかったようだ、ちなみに体力は減っていなかった。どうやらリュピが寸前でバリアを展開したらしくユキカは無事だった。
「な、なんで!?爆発!?」
「あれは爆裂石だよ、よくプレイヤーが引っかかる自発光する石。リュピが居なかったら一撃でリタイアだったよユキカ」
ユキカはナツナに抱きとめられていたが自分の足でしっかり立ち上がる。しかしこれだけでは終わらなかった、爆発を起こした洞窟は―――
「ね、ねぇ?て、天井がめちゃめちゃ崩れ始めてるよ?」
ユキカが指を指した天井は今にも崩れてきそうだ、ナツナは顔面蒼白になる。
「このままじゃリタイアしちゃう!逃げるよユキ!リュピだけのバリアじゃ持たない!」
ユキカの手を掴み最初に入ってきた入口を目指し走り出そうとしたが、先にそちら側が崩れ落ちる。二人共は反転して奥へ進むように走り出そうとすると……
「!?なっちゃん!!あぶなぁい!!」
「え………」
ユキカを掴んだ手を離し、突き飛ばし天井から落ちてくる岩を回避するつもりが、回避した場所にも落ちてきていた。ナツナは覚悟を決めて目を瞑る…………
「…………!?」
岩は落たが痛みや踏み潰された感覚もない、リタイアモニターも出ない。どういうこと?と目をゆっくり開けるとそこには
「あ、危なかったっすね」
白いマントをなびかせて、岩を粉砕にした聖剣、黒髪短髪の男の人。
「あ、ありがとう……ございます」
その男の人の白いマントの中心には『騎』という一文字マークが入っていた。