勧誘合戦
「さて……」
一人になった俺は辺りを見回した。ひたすらに花が生えている。あの世はお花畑というのもあながち間違っていないようだ。
地図を広げて丸をつけた場所を確認する。誰もいないので声に出して整理しよう。
「よし、じゃあここに行くには……」
……あれ?
「ここに……行くには」
少しの沈黙、そして理解。
「ここ何処だよ!」
ゴールは分かってもスタートがわからない!
駄目だ、とりあえず歩こう。
「そこの人、何もしなくていい生き方に魅力は無いかな?」
「……?」
辺りを見渡すが誰もいない。気のせいか?
「下だよ、下」
下……花しか無いな
「黄色い花をよく見てみ」
声の言うままに黄色い花を見る。パンジーかな。
「いるだろ? 私が」
私とは何か
「……ああ」
多分こいつだ。花にぶら下がるミノムシだ。
「……ミノムシ喋るのな」
「そりゃあミノムシの神ですから……で、どうかな?」
ミノムシはユラユラと楽しそうに揺れている。
「……何が」
「来世はミノムシにならないか?」
「いや、いいです」
さて、行こう。何かミノムシが喋ってるけど無視だ、無視。
「やあ、そこの君」
次は犬が話かけてきた。無視。
「にゃあ、君」
猫、無視。
「ねえ」
鼠、無視。
「……どう?」
これも無視……って何だこいつ。
細長くて気持ちの悪い物がうねうねと動いている。
「ハリガネムシだ」
「絶対やだよ!」
くそう、数歩毎に誰かに話かけられる。うざったいなぁ……
「よし」
俺は靴の紐をしっかりと締める。走るか