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プロローグ:ゲームスタート

「精神没入型試作ゲーム、『ブレイン・ファンタジー』へようこそ」


 ナビゲーター役の女性キャラクターによる定型文の挨拶。

 円形になっている部屋の壁にはゲーム内のものと思われる映像が目まぐるしく投影され、その中央には宙に浮いた椅子へ座りゴチャゴチャとした機器を操作するナビゲーターと、二十代程の男が一人いた。


「当ゲームは初プレイと認識しておりますが、間違いございませんか?」

「そうだ」

「では、当ゲームの概要をご説明いたします」


 立ったままナビゲーターを見上げる男の目の前に、空中に浮かぶモニターが出現する。画面には「Brain Fantasy」と表示されている。


「この『ブレイン・ファンタジー』は、従来のものとは一線を画す『精神そのものをゲームの世界へとダイブさせること』を可能とした最新鋭の未来型ゲームとなっております。情報工学、脳科学、心理学等々の分野でもトップクラスの能力を有した開発陣により、実際の肉体活動と同様の知覚・運動が可能になっており、登場キャラクターにも人工知能が搭載されております」


 説明自体には大した意味は無い。「遊び(ゲーム)」と呼ぶには過ぎた技術が使われていることはわかるが、だからといってプレイそのものに影響が出るわけではない。

 男は形式的なその説明を半ば聞き流していた。


「近年急成長を遂げた脳波研究と、それに付随する人間の精神構造を解明することを目的として作成されたゲームですが、プライヤーの皆様にはそういった事情を考慮せずに楽しんでいただけるように構成されておりますのでご安心ください」

「知っている」


 男の言葉は端的で冷たい。ナビゲーターと言えども、外見は十代後半の少女であることを考えればもう少し感情が籠っていてもよさそうなものだが、男にはそういった意識は無いらしい。


「あら、もしかして『賢者』関係者の方でしょうか?」

「そうなるな」

「そうでしたか、それは失礼いたしました。

 では、ゲームが作成された経緯などは省略いたします。基本設定の説明はお聞きになりますか?」

「……いや、いい。それよりもキャラクターメイキングを進めてくれ」


 逡巡したものの、男はそう答えた。


「かしこまりました。――では、これよりキャラクターメイキングを行います」




 背の高い草が一面に生えた草原の上で、男は目を覚ました。

 キャラクターメイキングを終え、スキップ不可能な長ったらしい説明を聞き流した後、ナビゲーターによる「ゲームスタート」の合図と共に視界が暗転した。気付けば、草原の上に大の字で寝転んでいる。


「確か、スタート位置はランダムだったな」


 立ち上がり、体の様子を確かめる。

 指を曲げ、腕を振り、肩と腰を回す。首をひねりながら足も下から順に駆動を確認する。


「問題ないな」


 ゲームの中の世界だが、実世界と同じように体の感覚があり、動作も意識の上と寸分の狂いも無いとわかると、大きく息を吸いこんだ。

 キャラクターメイキングを終えたとはいえ、外見に関しては変更していなかった。男の外見は、先程の説明中と同様、一般的な日本人の若者だ。あえて言うなら、引き締まった体を持ち、鋭さがあるものの整った顔立ちをしたイケメン、だろうか。

 無表情とまではいかないが、表情が大きく動かないために厳しい印象を受けるその顔が、視界の端に映った何かを追って動く。


「モンスター、か」


 視線を向けた先にいたのは、草原に生える草から少しだけ体を見せている、二本足で立つ鼠らしき生物だった。

 鼠は、二本足で立ち上がりながらしきりに威嚇しているものの、向かってくる気配は無い。男はすぐにチュートリアル用のザコモンスターだと気付いた。


「丁度いい、ここでの動き方を把握しておきたいからな」


 いつの間にか腰に付けられた細見の剣を抜き、半身に構える。その姿に戸惑いや躊躇は無く、敵意を示す見慣れない相手に気後れした様子も無い。


「いくぞ」


 淡々と宣言した直後、男と鼠の距離は瞬時に縮められる。

 ただのプログラムとはいえ、人工知能に等しいAIが搭載されたゲームだ、モンスターである鼠にもリアルな意思が存在する。そのためか、人間離れした男の速さに驚いた鼠は体を硬直させてしまう。その隙を逃さず、的確に鼠の喉元に剣を突き入れ、そのまま切っ先を横に滑らせるようにして首を刎ねた。とても素人には思えない、鮮やかな手並みである。

 ダメージなどの表記は一切無かったが、胴体から頭を切り離されて生きているようなモンスターがチュートリアルで出てくるはずも無く、敵を切り捨てた余韻を残したままの剣は、血を軽く払った後腰に戻される。


「『ゲーム中であっても、動きそのものはプレイヤー次第』。そのとおりだな」


 話には聞いていたものの、自分がその技術を体験するのは初めてだった男――プレイヤーネーム「エイジ」は、その実現性の高さに満足気な笑みを浮かべた。

 鼠の死体はすぐに透明になって消えていき、死骸があったはずの位置に小さな硬貨が落ちていた。同時に、一定距離を保って静止する形でモニターが表示されていた。


『●Result

 獲得EXP:2

 ドロップ:なし』


 戦闘の結果を示す画面を、右下に設置された仮想押しボタンで閉じ、大きく伸びをする。

 

「さぁ、始めるか」


 エイジはまず、これ見よがしに草原の先に用意された、石の外壁と鉄の城門で囲まれた都市へと向かった。

他の連載作品の合間に書くので、不定期更新です。

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