あの日の竜騎士へ
タイトル通りにリメイク品、修正版です。星影さんに割烹で紹介していただきました。そのまんま、駆け足展開ですみません。
あの日も私は荒れ狂っていた………。
暴れまわる私を止めようと数えきれないほどの兵士がこちらに向かってくる。それを見た私は思いきりの咆哮を轟かす。その姿勢に入る前に兵士は地へ身を屈める。高級耳栓とかいうのをしているみたいで衝撃に耐えるだけみたいだった。
私は先陣に向かって炎を思いきり吐いた。醜い断末魔が聞こえるがそれも憎悪の塊にしか聞こえず、怒りは収まらない。たかが脆い剣は鱗を貫けるような物でも無い。抵抗するだけムダ。それでも反乱してくる愚かな人間。
『全く………』
人間にはただ唸っただけに聞こえただろうが。
またまた来る人混みに向かって炎を吐こうと力を溜め始めたその時だった。
一人だけ何かが違う。
ただ突っ立っていただけなのだが何かが違う。
少し魔法を使ってその人間に炎を弾く見えない鎧を纏わせる。そして業火を吐いた。
その人混みからポツンと残った一人。
私を見ていた。
はたまた寄せてくる人間の塊。また火をぶち当てて殺す。彼は二回目だろうか。炎を見ている。包まれているのに熱を感じない。不思議な感覚が身に残る。彼は少し戸惑っていた。
「これは………」
透き通った声は今の私には安らぎを与えた。
暴れる力が急に無くなり、代わりにこの男を守ることに気が向いていた。
不意にその男は城の方へと走っていった。おそらくだが、親玉とでも言えよう存在に何かを働きかけるのだろうか。
『待て』
その声はその男を止めた。
『お前は何をする気だ?』
単なる質問だ。単なる。
「俺はあなたを見て決意しました……。」
少し間を置いて口を開いた。
「あなたを守ります!だから兵を退かせるように申すのです。俺は元々は竜騎士の者だったので―――」
『権限は強いと…』
固まった彼。
『ふーん……城も潰す気ではいたのだが、お前にそのところを見られたくないな…』
「別に俺は無理矢理傭兵にされた身なので」
『ううむ』
考えながらもそれでも歯向かう愚か者を踏み潰して、噛んで、尻尾で凪ぎ払う。
また一つ片付いたとき、私は念を押した。
『無理矢理この兵士に向けられたのだな?』
彼の言った「無理矢理なので」とは本意からしている訳では無いのだろう。それの確認である。
そしてもう一つ訊いた。
『この国を見棄てられるか?』
潰すので、この近辺に未練があるならば結局は排除するべきだと私は考えた。
「ええ。俺はこの国を嫌っていた旅人とでも言いましょうか。俺は竜への扱いはこの国では悪くない評価のようで俺にすがって来やがったから」
『ふん、良いだろう』
私はそのあとにも続くだろう言葉を断ち切るように応えた。
もう邪魔な人間は来なくなった。その代わりに男にすがるように後ろに居尽くしていた。そして何かを待っているようだった。
『貴様らはなんだ』
私はそれらに問う。少しでも歯向かったり弄ぶような発言をすれば皆殺しにする。その審判に訊いたことだ。
「…………」
何も来ない。
『早いことこの国の近くから離れろ。巻き添えを食らって死んでも良いのなら別だがな。猶予は5分だ。今のうちなら生かしておいてやろう』
そこにいた全員は速やかに退散していった。
そして上層部にその事が伝わり、やがて政府組織をあげて撤退か何かをしでかすだろう。
この国の城は森に面しており、皆はその森へと避難したようだ。
5分経ったのでその城を壊し始めた。まずは逃道を塀を倒して塞ぐ。その次に咆哮を上げて煽る。衝撃でヒビが入るのでそのヒビに爪を振り下ろす。脆くなってきたところで全てを弾き飛ばす鱗を持つ身体で押し倒す。力は他の生物と非にならないだろう。
ここまで話を進めながらも肝心な事をいえていなかったな…。
私はドラゴンだ。というより、それ以外に何があるか、想像するのが難しかったのかもしれないな。
そして、ここの国は私に向かっていきなり大砲を撃ってきた。その不条理に怒りを覚え、さらに出兵してきた為、正門に飛んで力ずくで門を破壊し、私は暴れまわっていた。
今は不思議なあの男のお陰とでも言えようか、理性を少し取り戻し、だが怒りは収まらないので城だけは潰すことにした。
本当は街も家ひとつ残らずに壊すつもりだったが城だけで力を抑えることに決めた。
城の基礎も半壊しあと一回ぶつかれば壊れるだろうと踏んだ私はその大きな身体を城へ押し込んだ。城は大きく揺れた後に倒れた。崩れたその牙城を私は更に踏み潰す。愚かな人間共などを必要とする人なんて居ないだろう。王に声をあげさせる前に瓦礫の下敷きになっただろう。
私は森へ視線を移す。そこには先程までの様子を見ていた人間がちらほら。
『見ていたのか』
出来る限り優しく問う。
「いえ」
嘘、偽りとしか言えない答えに少しイラつきを覚えた私は足を大きく振り下ろして地面を揺らした。
『嘘をつくものは慈悲も容赦も棄てる。良いな?』
素直に謝罪する彼らを尻尾で弾き飛ばしてから、唯一誠に答えたあの男を背にのせて少し飛んだ。
もはや掻っ攫うような感じなのだが、実際は。でもこいつしか居ない気がする。
まだ森は抜けていないが、ゆっくり身体を降ろす。男はゆっくりと地面に足をつけた。
『そういえば、興味深いのに何も自己紹介とやらをしていなかったな。私の名はティナ。お前は?』
唐突に訊かれておどおどしていながらも男は答えた。
「お、俺は、マーク………で、良いんだよな?」
『私を見てここまでスラッと言えたものなど一人も居ない。お前はかなりの凄腕だな』
「ありがとうございます」
私はそのマークという男に興味があった。
マークは私、ティナに興味を持っていた。
「でも、これから貴女は何をするんですか?」
うっかりそこを忘れていた。
『今は何もないな……。そうだ、お前の行動を見てみたいといったところかな……』
私はマークをもっと見てみたいと思った。
「しかしだな、どこに行こうとも何も無いからな……」
そう言いながらも何かを考えてる顔をしていた。
そしてある程度経ってから言葉を出した。
「仮に貴女に翼を広げてほしいと言えば叶うものなのだろうか」
私はマークに少し付いていこうと思っている。なので
『構わん。振り落としたりもしない』
また黙考するマーク。考えながらも私の身体を撫でるその手は温かかった。あの憎き人間どもなら間違いなく葬るがマークならもっとしてほしいと思うばかりだ。
「この近くの街か何かに行くつもりだ。出来れば貴女が好意を持った街が良いのですが」
『構わん。乗りなさい。近くでいいのだろう?』
頷く彼を確認して私は身を屈める。その上へとよじ登った彼がしっかり私にしがみついた感覚を得てから大きく翼を打った。
この国は先進国らしく、それでも私を優しく受け入れてくれた数少ない国である。
城の裏の林にゆっくり降りてマークを降ろす。
「ところで、貴女はどうするのですか?」
『私はお前の傍にでも居てやろうかな』
いつ食べるかを考えながら。
「まさか、食べたりしないよね?」
『離れるのが惜しいのよ』
なんて乙女な言葉で返したが問題ないはずだ。
「じゃ、人里に下りますね」
そう言い残して進む彼の背中が急に辛く思えてしまった。どこか遠退いてしまいそうで、私は初めて寂しいという感情を知った。私がやった惨劇は沢山のこの感情を与えてしまったことを少し後悔した。
私は人から見れば巨体だ。力も強大である。確かに人目に付くところで棲めば酷いことになってしまう。人間になりたいと思ったのも初めてだった。
翌日、彼はすぐに私の元へ来ていた。目を覚まして身体を起こしたときに踏み潰しそうになった。お陰で木々を何本か倒してしまったのは謝るが。
『危ないじゃない。足元に居てたら踏んでしまうわよ』
「いや、触り心地の良い鱗だから」
その言葉に少し邪念を感じた私は彼を押し倒してのしかかった。その重さに苦し紛れの声を出す彼にこう言った。
『侮辱にあたる好意をするでない』
私は一番高い攻撃力と一番高い防御力を誇る生物に分類される一、生物だ。
「すみません」と一言出した彼に私は『許すに決まってるでしょう』と諭して結局は無駄手だったのを少し憎んだ。
この時ぐらいから私はマークを、彼を離すのは嫌になったと言えるだろう。
彼は遂に【竜騎士】と言われるようになった。要因は私が勝手に付いていってる事なのだが、周りからは従えているのではと思われているらしい。
最大と言えるのはおそらく、街から盗賊を彼と私が退かせたことだろう。
空を飛んでいた私が彼に絡んでいた盗賊どもを発見し、刃物を手にした瞬間に舞い降りたら、「竜を連れる旅人だと!?」と彼に浴びせてどこかへ消えていった。
たかが、私が降りたら悪かったのか?
でも、彼はそんなことは言わなかった。
「刃を持ってるのは勝ち目が無いから少しまずったんだ。ティナ、ありがとう」
思い切り抱きつかれた私はそのまま硬直していたが。
彼も現役から退いた年、小さな森の中に住んでいた。私はそんな彼を見守るように居るわけだ。この頃に言った彼の言の葉が今でも脳裏に鮮明に焼き付いている。
「もう一度、世界を見たいな。出来れば、君の背に乗ってね」
『構いませんけど何故です?』
「あれからずっと護ってきたものがあるだろう。それが今、どうなっているか見てみたいんだ」
『でも、私は悪竜でした。今でも怒りを覚えると暴れてしまってるんじゃ…』
「もう、大丈夫。良きドラゴンであり、僕をずっと支えてくれた。ティナは凄く良いドラゴンだ。善竜だ」
私は確かに暴れまわっていた。国を数十国も破壊してきた。正直、悪竜そのもの。だけど、今はそうじゃない。善竜と言ってくれる彼がいる。
『行きましょう、貴方の護ってきた世界へ』
誉めてくれた人間なんて彼しか居ない。だから。
他の動物が好きになるなんて可笑しいだろう。だけど私は間違いなく……
好きなんだ!
彼と出会ったあの城は今では城跡だけが残っており、『清竜が姿を最初に現した場所』といわれ、私は何故かしら、神格化までされてしまっていた。
唐突に彼が言い出した。
「やっぱり、ここだよね」
私は頷く。
「あのさ、変な急だけど……好きなんだ」
『そんなの、分かってる』
「え?」
『だって……私も好き』
彼は驚いた顔などは一つもせず、微笑んでいた。私の首に抱くように手を組まれた。
私はその顔が嬉しかった。
朝陽に照らされた蒼空に映る彼の笑顔が。
ありがとう。
私はそれを護る。ずっと…。
リメイクしてみました。原稿版に加筆修正?みたいな感じですよ。