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立入禁止領域⑥

それから俺たちは別々に席に戻った。

帰りの会計はみんなに内緒で外岡さんの分も俺が払った。

私が払うって小声で話しかけてきたけど今度奢ってって言った。

やっぱ女に払わせるのってアレだし、また会う約束取り付けたいし。

ってか小声で話し合うのってすげーいい。

かなり外岡さんを近くに感じられた。

俺はその日寝る寸前まで外岡さんとの事を思い出し、猛烈に気分が良かった。

またすぐ会いたくなった。


翌日出勤したら事務所で外岡さんに会った。

日曜は唯一3時間くらい一緒に働ける曜日。

今日から日曜の仕事をデートと呼ぼうっと♪

「う……お、おはよ」

外岡さんは見るからにバツの悪そうな気まずい顔をしている。

「おはよ!」

俺はニッコニコ尻尾ブンッブンだ。

「昨日は…ごめん。私酔ってて…」

「覚えてないとかナシだよ?」

「う…」

そういう嘘が下手なのが外岡さん。

こんなんじゃ旦那にばれる日近いかも?

「なんか千鳥…キャラ変わったね…」

「そう?あー俺ね、彼女できると積極的なの♪」

「ははっ…参ったな…」

「いつも余裕~な外岡さんの仮面剥がっしゃうよ」

俺はいたずらに笑って言う。

「遊びなんだから、気楽にさ~」

「わかった、腹くくる。私も負けないから」

「なにが?」

そう言うと俺の頬を両手で包んで顔を近づけてきた。

キスだ!キスだ!キスだー!

と思ったら耳元にフーッと息をかけてきた。

ゾクゾクッ。

俺はうっかりアッと漏らしてしまった。

「ふっ…隙アリ」

やーらーれーたーーー。

最後の流し目まで俺のツボ。

目を閉じながら唇作った俺の情けない顔………くそー

仕返しだ!とノリノリで抱き寄せようとした時

事務所の扉が開かれ二人はとっさに離れた。

「おはよー、千鳥くん、外岡さん」

現れた店長に舌打ちしそうになった。

頭の中では胸ぐら掴んで外につまみ出してる。

「「おはようございます」」

それから3時間の初デートは何事もなくいつものように過ごした。


俺たちに密会する余裕はない。

正確には外岡さんにその余裕がない。

とにかく子供優先だから。

子供が保育園にいるとき=仕事してる時だけだから

外岡さんが一人でいる時間はないのだ。

会えるのは平日事務所で入れ違う数分と

日曜の3時間だけ。



俺は悶々としていた。

そりゃ健全な青年ですから

しないわけないでしょ。

俺の気持ちを伝えて、遊びとはいえ付き合えた。

神様ありがとうと何度思っただろう。

でもごめんね、俺は欲深い人みたい。

いやいや、人類みな欲深い生き物。


もっと一緒にいたい。

二人でしかできないことしたい。

いつでも会いたい、声聞きたい。

連れ去って独り占めしたい。

半歩でも一歩でもいいからこの関係を進めたい。

…さすがにこんなこと

叶いませんよねぇ。


許された時間の中で

俺は積極的に話しかけまくる。

今までと態度が違いすぎて

仲間にばれるかもしれない。

その時がきたら俺が一方的にアタックしてるだけって言う。事実そうだし。

相変わらず外岡さんはクールに接してくる。

募る気持ちは俺だけなの?

…敵わない彼女。

気持ち確かめたい。


「今から休憩だからあとで事務所来て」

俺はこっそり耳打ちする。

外岡さんは周りを気にしてから縦に頸を2回振る。

先に事務所に入って待ってると外岡さんが賄いを持って来る。

「はい、どーぞ」

「やった、アマトリチャーナ」

俺の好きなパスタ。

はいそこ、女子っぽいとか言わない。

「…ねぇ、俺に食べさせて♪」

俺の目の奥が光る。

「いいよ」

丁度良い量のパスタを器用にフォークで巻き取ると

「あーん」

と言って口を開けさせ

俺の口に運んでくれた。

「うめぇー幸せ」

素直に言った。

「俺もやる♪」

「えっ(苦笑)いいよ、仕事中だし」

「いーから口開けな」

フォークに巻き付けたパスタを半ば強引に差し出すと

外岡さんはしぶしぶ口を開けて受け入れた。

その目は俺を見ていた。

少し睨むような、でも艶っぽい眼差し。それ反則…。

少しもぐもぐさせて飲み込んだ後、口角についたトマトソースを親指で拭き取り、口にいれてチュッと鳴らした。

あーもうどうしてこの人は。

俺の期待のそれ以上を難なくやり遂げるんだ。

その視線に仕草にくらくらする。

「ん、おいし」

「……未希……」

いとおしすぎてつい名前で呼んでしまった。

バカ。下の名前はまだ俺の妄想の中でしか呼んじゃダメだろ。

未希は少し驚いた顔をしたが

すぐに口許を緩ませ不適の笑みで

「なあに?英介」

俺の名前を返してきた。

「も…無理…」

俺は未希の唇に視線を落としうなじに手をかけてゆっくり近づいた。

「はいダメー」

未希はまたも俺の口に両手を当て拒否する。

「あうー」

俺は泣き真似をして心底もがいた。

キスしてぇキスしてぇ。

「あのね、約束したでしょ」

「わかってるよ!でも軽く…」

「無理無理!」

「無理ってなんだよ!俺とじゃ嫌ってこと?」

「声でかいよ!……もう!違うけど」

「じゃあなに?!」

「…軽くしたら止まらなくなりそうだから」

「止める!止めるよ、本当」

俺はもう必死だった。

せっかくの賄いが伸びようが休憩時間がなくなろうがお構いナシの懇願状態。だせぇー。

でも今は欲求がとまらない。

犬だってこんなお預けくらわない。抑えるの放棄。

「ちょっとだけさせて!」

再び寄った俺は唇をつきだしてそりゃあもう醜い変態だったと思う。

未希は笑いながらやだやだと抵抗している。

鼻息荒げて目の前のデザートにありつく寸前、

「英介が良くても…」

未希がスッと立ってふいに耳元でこう囁いた。

「私が止まんなくなりそうだから!」

言い終わると同時に頬にキスも残された。

俺が一瞬旅立った天国から戻ると未希はそそくさと扉を閉めて仕事に戻ってしまった。

まーたやられた。なにその可愛いの。

いつもうわてな未希のやり方。

今頃ヘヘーンと勝ち気に舌を出してるところだろう。

けど俺は見逃さなかった。

扉が閉まる寸前の未希の頬は

居酒屋の時と同じように紅く色づいていたことを。

あんな事…するんだ。

俺は当然喜んだ。熱いねヒューヒューとどこからか冷やかしが聞こえてきそうだ。

なんだ未希も俺のこと…

なーんだなんだ♪

これ両想いってやつ?

あったり前じゃん!


しかし現実を考える。

うん、俺はからかわれてるんだなきっと。

これはほんのお遊び。

よく考えろ、な?

マジになったらキツイ。俺が辛い。

ゲームだよゲーム。

ドキドキするだけのゲーム。

本気で惚れたら敗けだ。

だって未希は…

絶対手に入らない人。

立入禁止の領域。


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