立入禁止領域⑤
やばい…超やばい…
予想外すぎる展開キタ。
土曜の夜に好きな人と酒呑んで自分抑えられるか自信ない。。
なんだどうしたんだ外岡さん。
らしくないぞ。
そういう誘いはフリーの女が気のある男にするもんだろ。。
……え?まさか?
俺に気が…??
ないない!ないない!
外岡さんに限ってそりゃないだろ。
だってあの外岡さんだぜ。
サバサバしすぎの。
誰に対してもクールで姉御肌で常に余裕のある外岡さんだぜ。
夫子置いて俺選ぶっておかしいでしょ。
わけわからないまま前日の金曜になった。
外岡さんとはあれ以来会ってない。
今の俺にはそれが救い。
だってどんな顔合わせたらいいかわかんない。
今日の仕事が終わろうとしたとき
「千鳥~明日行くでしょ?」
スタッフの女が声かけてきた。
「行くって…?」
「白木屋!外岡さんからメール来なかった?」
…………………
アアアアアアア゛ーーー!!!!
そういう事かよーー!!!!!
「おう、行くよ。じゃおつかれっす」
得意のポーカーフェイスで去る。
あー泣きたい。
事務所で突っ伏した。
心のどこかでは聖母らしい対応に賞賛を浴びせている。
しかし昨日まで俺の中の淡い期待の方が勝っていたのだ。
その期待が一気に崩れ落ちた。
恥ずかしさと悔しさとアホらしさと何とも言い様のない感情でぐっちゃぐちゃ。
くっそーくっそー。
誰か助けて。
もう俺やだ。こんな恋やだ。
一喜一憂した俺のバカ。
次の日も複雑な気持ちだった。
それでもいいよと答えた手前
白木屋に向かうしかなかった。
17時きっかりにバイトを上がってその足ですぐに向かった。
「千鳥!」
白木屋につくと外岡さんが手招きした。
さりげなく隣の席ゲット。
少し小声にして顔を近づけて話しかけてきた。
あ…この距離ちょっと幸せ。
「あの、今日さ。他にもスタッフ呼んでるんだけど…いいよね?」
「ああ、昨日聞いたよ」
「良かった。やっぱ二人はまずいからね(苦笑)土曜なら旦那さんが子供見てくれるから夜出られるんだ」
…くっ、まだ見ぬイクメンに嫉妬。
俺だって子供の一人や二人見てやらぁ。
「ちゃんと私が千鳥の分も支払いするから!沢山飲んでね」
「んじゃお言葉に甘えて」
ヤケになり即行ビールを頼んだ時
「な~んだ中にいたんですね~」
とぞろぞろとバイト先のスタッフが入ってきて一気に賑やかになり宴が始まった。
あれから2時間。
宴は続いている。
俺は初めのビールを皮切りに焼酎、日本酒をザブザブ飲んだ。
外岡さんはワインを1本開けている。
他のスタッフと会話しながら時折トンッと弾みで触れる腕が俺を意識させた。
チラッと外岡さんの顔を見る。
頬は高揚してたが酔いは顔にそんな出ていない。
飲んでもクールな女なんだね。
ワインを飲むのも慣れてる。
俺はグラスをいじる外岡さんの指先に目をやる。
俺の事は全然気にかけてくれない。
「……頂戴」
俺は外岡さんのグラスをうばった。
「あっ…!それ私のグラス~呑むならそっちのに注いであげるのに~」
わざとリップ痕の上から重ねて口つけたのに。
全く意識してくれない。
なんなのその余裕…。
やっぱり敵わない。
もーとか言いながらまたスタッフとの会話に夢中になる。
旦那のこととか子供のこととか俺の嫉妬する内容ばっか聞こえてくる。
「千鳥…お前って外岡さんの事…?」
「っるせぇ…」
仲いいスタッフが俺の行動に突っ込んできたけど
皆酔っててそんな空気はすぐに流れた。
「ちょっとトイレ」
外岡さんが席を立った。
俺はタバコに火を点けたばかりで少し迷ったが後を追った。
トイレの前のタバコ自販機の前で外岡さんを待つ。
「あれ、千鳥」
外岡さんが出てきた。
少し驚いた顔してる。
「タバコ吸うんだね~」
「ん、少しね。仕事前は吸わない。匂いつくから。」
「へぇ、そうなんだ!えら~いえらい」
子供扱いされたようでちょっとムカッとしてしまった。
「吸えば?」
吸ってるタバコを強引に差し出してやった。
外岡さんは煙を避けるように一歩引いたかと思ったら次の瞬間、
俺の吸っていたタバコに口をつけて吸った。
スゥー…フー…ッ
煙はちゃんと肺に入り、口から出てきた。
「吸えるの…?」
思いっきり驚いて聞いた俺に
「ふふっ…5年振りくらい」
余裕な笑みで外岡さんは答えた。
唖然としてる俺に続ける。
「私が吸ってたのもメンソールだから、それ吸える~」
俺はこの時スイッチが入った。
「外岡さん、酔ってる?」
「えー酔ってないよ~私強いの。まっすぐ歩けるし~、はっきり喋れてるでしょ!」
確かにシャンとしてた。
でも俺は確信していた。
普段の外岡さんは語尾を伸ばして話したりはしない。
確実に酔ってる。ちょっとは。
いつも見てるんだから間違いない。
「千鳥は何でここにいるの~もう戻ろ?」
タバコ買いにきただけって言おうと思った。
のに、つい本当のこと言ってしまった。
「外岡さん待ってた」
「え~?なんで~?」
もう止められない。
「あのさ…気づかない?」
「なにが~?」
「俺外岡さんの事…」
一瞬。ほんと一瞬、いろんな事考えた。
次の言葉を告げればその後の外岡さんの困った顔が予想できたからだ。
でも俺の口は躊躇わなかった。
「好きなんだよ」
「……………」
ほら、やっぱり。
困らせるじゃん。
「ははっ…ありがとう~嫌われてなくて良かった~」
なに…驚いただけなの??
明るすぎる。だめだ。
これじゃまるで伝わってない。
俺の気持ちの全部。
もういいや、いっそ…。
やけくそ。
俺はそばにあった灰皿にタバコを押し付けた。
「だからさぁ、俺と遊ばない?」
誘うように耳元で囁きかけた。
ピクッと体を引いて首筋を抑える外岡さん。
「それ…どうゆう…」
出ましたその目付き。
瞼の閉じ方とかいちいちゾクッとするんだよね。
「旦那子供優先でいいから俺と付き合ってよ」
「…私そんな器用なことできない」
外岡さん、酔いさめちゃったかな。
でも俺酔っぱらってるし、さっきからオラオラ言っちゃってるし、もう止まんね。
「それって嫌ではないってことだよね」
「千鳥は…嫌いじゃないけど…」
「はい決まり、今から俺彼氏ね♪」
「や、でも罪悪感半端ないしやっぱ無理…」
「いーじゃん遊びなら。無理だと思ったらすぐ切っていーから」
「………切るって…」
「俺も本気にならないし、外岡さんも家庭を壊さない」
「……………」
思いっきり困ってる。
さぁ断って、思いっきりふってくれ。
そんで俺に「冗談だよ、何本気にしちゃってんの」って言わせてくれ。
なのに
「…頼むよ…外岡さん…付き合ってよ」
最後の最後ですがるずるい俺。
「…………わかった」
「まじ…?!」
「千鳥に…興味ないわけじゃない…から…」
何言ってんの私みたいな顔した外岡さん。
こんなテンパってんの初めて見るかも…新鮮!!
「まじ?まじで?いいの?!」
「まじじゃないよ、遊びだからね」
慌てて外岡さんが言った。
「わかってるって。
俺と外岡さんだけの秘密な」
俺はもう有頂天だった。
遊びでいい。遊ばれていい。
外岡さんと仲良くなりたい。
もっと知りたい。近くにいたい。
あんなことやこんなことしまくりたい。
数えきれない欲が爆発しそうだった。
外岡さんが少しうつ向いて頬を両手で覆っている。
自分の答えに動揺している様だ。
あーたまんない。可愛い。
いつもクールな外岡さんが今
俺の前で自分を失っている。
酒か?酒の力か?
ならもういっちょその力借りるぜ。
「あとさ、奢ってくれるっていう今日のお礼だけど…」
「うん?」
顔をあげた外岡さんに俺は軽くキスした。
「こっちの方がいい」
外岡さんは目をおっきく見開いて口は半開きになっている。
もう一度キスしたらその先も行けそうなくらいに。
何も言えないでいる外岡さんに
「足りないの?もっと?」と
再び唇を重ねようとしたが両手で拒否された。
「やだやだ、なんて事すんの!信じらんない!」
怒ってるーははっ。
初めて見る外岡さんだらけで俺は最高に楽しくなった。
「キ、キスとかそういうのナシだから!それでも良ければ付き合う!いい?」
「しょうがねぇなぁ…」
ニヤニヤが止まらなかった。
なんだか知らないけど外岡さんは俺に堕ちる気がした。
自信過剰になるくらい、外岡さんの反応はいちいち素直だったから。