立入禁止領域③
次の日もその次の日も
俺はシフトに入ってなかった。
やがて来たバイトの日は外岡さんが休みだった。
少し緊張して入店した俺は何だか気が抜けてしまった。
しかし外岡さんが休むなんて。
今まで無いことだ。
風邪でもひいたのかな。
それとなく店長に聞いてみた。
「あぁ、なんかね、体調悪いんだって」
やっぱり。
「もらってきちゃったらしいんだ、おたふく」
おた…おたふく?
おたふくって 大人になってもなるもんなの??
「外岡さんの子供が」
・・・・・・
店長。いつもの倒置法の度がすぎる。
おかげで俺は最後のフレーズがしっかり脳裏に残った。
子供…こども…コドモ……
神様。俺の恋の相手は聖母でしたか。
なんてことだなんてことだ。
旦那がいるだけならまだしも
子供もいたとは…。
ん?まだしもってなんだ。
なに望み繋げてたんだ俺。
まずいまずい、まずいぞ。
流石に…子持ち人妻は最も避けなければならないジャンルだろ。
「だからお願いね、2倍の仕事」
ははっと明るく言い去る店長のぽっちゃり背中を見つめると帰りたくなった。
その日は腹が減ってもまっすぐ帰ってベッドに突っ伏した。
爆弾を遥かに越えるダメージ。
考えてもしょうがない。
もう諦めるしかないんだ。
外岡さんには旦那はともかく愛する子供がいる。
俺がどう頑張っても浮気心なんて芽生える筈がない。
俺、そこまで手に入れたいと考えてたのかと気づく。
なんで好きになっちゃったんだろ。
なんで好きって気づいてから知っちゃったんだろ。
後悔。。。
なにに?
好きになったことに?
真実を知ったことに?
違う。どっちも良かった事だ。
俺、まだ気持ち伝えてない。
後悔はそれからじゃね?
すっきりするにはぶつかるしかない。
結果は分かりきってるけど…
頼む、俺の為に告白させてくれ。
次の日外岡さんはバイト先に現れた。
「千鳥」
どきっ。バカ、何がどきっだよ。
「あ、外岡さん。もう大丈夫なの?」
「うん。まだ治らないけど今日は母が看てくれてるから。
昨日はごめんね、店長から千鳥が2倍働いたって聞いて…ありがと」
「そっか。俺なら全然ヘーキ。…ってか外岡さん、子供いたんだね」
自分で傷をえぐる。
「うん。今2歳の息子が一人ね」
くぅー息子になりてー。…冗談。
さすがにそりゃ変態すぎ。
「へぇ…可愛くてしかたないっしょ」
「うん!腕とかさぁムニムニして可愛くて、食べたくなるよ」
俺は外岡さんが食べ…喝!!
そうだ理性よ、お前が正しい。
そうやって俺の本能の邪魔をし続けててくれ。
「俺いつでも代わりに入るから大変なとき遠慮なく言ってよね」
精一杯普通の対応を装ってそう話したとき
ちょっと間があったから外岡さんの顔を見た。
驚いたように口は半開きで瞬きを繰り返している。
「千鳥…ありがとー…」
聖母が笑顔になった。
「迷惑かけたのにそんなこと言ってくれるとは思わなかった。嬉しー…」
だめ。だめ。だめ。
そんな顔で俺になつかないで。
今は羊の着ぐるみ纏ってるけど中身狼だよ俺。
背中のジッパー開けて襲っちゃうよ。
「じゃ、早速なんだけど、明日よろしく!」
……正直複雑でした。。。
それから2週間、外岡さんは本当に休みがちで俺はバイトに出っぱなしだった。
「千鳥くんいるんだ、今日も」
毎日会ってる店長。。。
理由など知り尽くしてるくせにと
頭のなかで首しめといた。