盗難未遂
冬の風物詩といえば、やはりクリスマスだ。
町中はツリーやら電飾やらで彩られて、カップルたちが目立つようになる。そんな中、僕たちはクリスマスにプレゼント交換とやらをすることになった。
プレゼント交換とは、何人かが思い思いのプレゼントを用意し、それを音楽に合わせてグループの間で回す。音楽が止まった瞬間、自分が持っていたプレゼントが自分のものになるわけだ。いわゆる、プレゼントの椅子取りゲーム的なものだと僕は思う。
けれど、問題はそのプレゼントを何にするかだ。誰とも知れない人の元へ旅立ってしまうのだから、少しは気の利いたものにしておかなければならないだろう。
「ねえ、どうしたらいいかな」
「あんた、まだ悩んでるの?」
とりあえず、先ほどからずっと一緒にいてくれていた優子に聞いてみる。
ちなみにここは一人暮らししている彼女の部屋で僕らは別に付き合っているわけではない。ただ、小学校から大学まで一緒というだけの関係だ。
最初はうざったそうにこちらを眺めていた彼女も、持っていたシャープペンの尻を顎に当てて考えてくれているらしい。
最近二輪の免許を取ったけどお金がないから肝心のバイクを買えない、と散々言っていたのだけど、もう諦めたのだろうか。
「……あれは? 盗んだバイクで走り出すーって歌ってる奴」
「CD?」
「そう。あれ、好きなんだよね。なんか青い春って感じで」
「……青春?」
「そうそう」
そう言って、優子は目を細める。でもあれ、古くないかなあ。絶対開封した後にみんなから文句を言われる気がする。
それでも否定した後に優子が怖い顔をするのを恐れて、僕は結局頷いていた。
「じゃあ、買ってくるよ」
「なら私も行く。盗んだバイクで走り出そうぜ」
妙なことを呟くと、彼女は率先して外に出て行った。
もう外は寒いのできちんとマフラーを巻いて、何故かダウンジャケットを着込んで。普段、優子は丈の長いダッフルコートを着ているのに。
慌てて後を追って外に出ると、野太い悲鳴が聞こえた。
ボロアパートのドアを開けた瞬間、錆が舞い散る向こうで優子が隣の住人の背中に跳び蹴りをかましていた。倒れる隣の高橋さん。彼の持っていたバイクのキーが宙を舞う。優子はそれを掴み取ると、にっこりと笑った。
「盗んだバイクで走るのって、楽しいのかな?」
それは犯罪だよ、とは言えなかった。
外はちょうど雪が降ってきたところで、鼻の奥が冷えてちょっとだけ痛くなった。