ゆめ
三題噺もどき―はっぴゃくきゅうじゅうきゅう。
ブランコに揺られている。
誰かに背中を押されて。
勢いはさほどないけれど。
足は勢いよく投げ出される。
「……」
しっかりと鎖を握っている。
じとりと汗をかき始めている。
気を抜けば手が外れてしまいそうだ。
それでもブランコに乗っている。
「……」
背中を押す手は。
やけに冷たく感じる。
脊髄に染みわたるような。
異様な程な冷たさ。
「……」
それがやけに気持ちが悪い。
手の形がはっきりと分かるほどに。
冷たくて冷たくて。
それなのに体は暑いらしい。
「……」
手のひらは汗まみれになり。
油断すれば確実に滑る。
しかしブランコの勢いは止まらない。
むしろ、強くなっている。
「……、」
思わずブランコから突き落とされそうになる。
強く背中を押されくっきりと手の形が残る。
それはやけに大きくはっきりと冷たく。
ぞわりと鳥肌が立った。
「……」
ブランコから降りたいのに。
足をつく余裕さえない。
ここに地面はあるんだろうか。
空中に浮かぶブランコなんてありえないのに。
「……」
足は空を切るばかりで足先にぶつかるものは何もない。
ただただ勢いが増すばかりのブランコに揺られて。
冷たい大きな手と今にも滑りそうな自分の手に。
落ちそうになる恐怖と落ちてしまえば楽なのになんて思って。
「……」
揺れた視界の先には何も映っていない。
真っ暗なだけの黒だけが広がっている。
ブランコの揺れる音も聞こえない。
やけに近くに鼓動のような音が聞こえるだけ。
「……、」
あぁ、これは。
私の心臓の音か。
「……」
背中を押す大きな手は。
覚えのある、あの手だ。
「……」
顔が見えないのが何とも私らしい。
あの日から声も何も思いだせない。
なぜいないのだろうと嘆くばかりで。
明日が来ることが嫌になった私らしい。
「……」
もういない。
もう会えない。
声も聞けない。
体温も感じられない。
「……、」
ただ写真の中で笑っているだけの。
「……」
はた。
と、目が覚める。
枕元ではスマホが震えている。
もうそんな時間らしい。
起きて動かなければいけない。
「……」
何かが顔の上をすべる。
冷たいような熱いような。
「……」
あぁ。
死にたいなんて。
思ってはいけないのに。
お題:脊髄・明日・ブランコ




