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三題噺もどき5

ゆめ

作者: 狐彪
掲載日:2026/07/03

三題噺もどき―はっぴゃくきゅうじゅうきゅう。

 




 ブランコに揺られている。

 誰かに背中を押されて。

 勢いはさほどないけれど。

 足は勢いよく投げ出される。

「……」

 しっかりと鎖を握っている。

 じとりと汗をかき始めている。

 気を抜けば手が外れてしまいそうだ。

 それでもブランコに乗っている。

「……」

 背中を押す手は。

 やけに冷たく感じる。

 脊髄に染みわたるような。

 異様な程な冷たさ。

「……」

 それがやけに気持ちが悪い。

 手の形がはっきりと分かるほどに。

 冷たくて冷たくて。

 それなのに体は暑いらしい。

「……」

 手のひらは汗まみれになり。

 油断すれば確実に滑る。

 しかしブランコの勢いは止まらない。

 むしろ、強くなっている。

「……、」

 思わずブランコから突き落とされそうになる。

 強く背中を押されくっきりと手の形が残る。

 それはやけに大きくはっきりと冷たく。

 ぞわりと鳥肌が立った。

「……」

 ブランコから降りたいのに。

 足をつく余裕さえない。

 ここに地面はあるんだろうか。

 空中に浮かぶブランコなんてありえないのに。

「……」

 足は空を切るばかりで足先にぶつかるものは何もない。

 ただただ勢いが増すばかりのブランコに揺られて。

 冷たい大きな手と今にも滑りそうな自分の手に。

 落ちそうになる恐怖と落ちてしまえば楽なのになんて思って。

「……」

 揺れた視界の先には何も映っていない。

 真っ暗なだけの黒だけが広がっている。

 ブランコの揺れる音も聞こえない。

 やけに近くに鼓動のような音が聞こえるだけ。

「……、」

 あぁ、これは。

 私の心臓の音か。

「……」

 背中を押す大きな手は。

 覚えのある、あの手だ。

「……」

 顔が見えないのが何とも私らしい。

 あの日から声も何も思いだせない。

 なぜいないのだろうと嘆くばかりで。

 明日が来ることが嫌になった私らしい。

「……」

 もういない。

 もう会えない。

 声も聞けない。

 体温も感じられない。

「……、」

 ただ写真の中で笑っているだけの。







「……」

 はた。

 と、目が覚める。

 枕元ではスマホが震えている。

 もうそんな時間らしい。

 起きて動かなければいけない。

「……」

 何かが顔の上をすべる。

 冷たいような熱いような。

「……」

 あぁ。

 死にたいなんて。

 思ってはいけないのに。











 お題:脊髄・明日・ブランコ

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