幼馴染は私の大切なものを奪うのが趣味だった
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幼馴染のリラ・ハッセンは私の大切なものを奪うのが好きだった。
ダイヤモンドのついた髪飾り、買ってもらったばかりの翡翠のブローチ、お土産にもらった高級万年筆、優雅な細工が施された金の懐中時計……。
これらは、彼女が帰ったあと消えていた。
私は彼女が盗ったことを知っているが、あえて追求しなかった。
私にはある目的があったから。
それからもリラの窃盗は続いた。
そして、今回リラが私から奪ったものは……。
「マックス、リラ!
そこで何をしているの!?」
使用人とともに部屋を開けると、マックスとリラがベッドでむつみ合っていた。
「違うんだラッへ! これには理由があるんだ! 話を聞いてくれ!」
婚約者のマックスは、真っ青な顔で叫んでいた。
リラは、ふてぶてしい顔で「あら、ばれちゃったみたいね」と言って笑っていた。
「私は浮気男も泥棒の幼馴染もいらないわ!」
私は二人にそう告げて扉を閉めた。
後日、マックスが訪ねてきたが門前払いした。
彼は門の前で「頼むラッへ! 捨てないでくれ! あれは一度きりの過ちなんだ! リラが誘ってきて断れなかったんだ!」と叫んでいた。
彼は大声で叫んでいたので、道行く人の耳にもよ〜〜く届いたことだろう。
婿養子に入る身で浮気をしたマックスが悪い。
私から切り捨てられたら、マックスは路頭に迷うことになるだろう。
どうでもいい。
マックスの浮気が原因なのだから、慰謝料は彼の家にしっかり請求させてもらうわ。
私は使用人に命じ、彼を警備隊へ引き渡した。
マックスを追い払うと、今度はリラの家族が謝罪にやってきた。
リラの両親である子爵夫妻だけでなく、祖父母まで一緒だった。
なのに肝心のリラはいなかった。
子爵家の当主を門前払いするわけにもいかないので、仕方なく書斎に案内した。
彼らは私に頭を下げ、「どうかこの此度のことは、裁判沙汰にしないで欲しい」と懇願してきた。
「私がリラを訴えなければ、私は『真実の愛で結ばれた二人を邪魔した悪女』と噂され、次の婚約は望めないでしょう」
幼馴染の婚約者を奪う女の為に、そんな汚名を着てやる義理はない。
「リラが遊びに来たあと、アクセサリーや万年筆や懐中時計が消えました。
その件と合わせて調査し、追って慰謝料を請求させていただきます」
彼らは、リラの盗癖のことを知らなかったようで、信じられないという顔をしていた。
後日、警備隊と共に弁護士がリラの部屋に家宅捜索に入ると、彼女の部屋の隠し扉から、私の家から消えたアクセサリーや万年筆や懐中時計が出てきた。
その全てに、我が家の家名、もしくは私の名前が刻印されていたので、言い逃れはできない。
リラは「ラッへにもらったのよ! 盗んだんじゃないわ!」と叫んでいたが、そんな言い訳が通用するわけがない。
プレゼントされた物なら、リラの性格なら、皆に見せびらかすはずだ。
誰にも見せずに、隠し部屋にしまっていたのが、何よりの証拠だ。
愚かな子。いくら高価なものでも、身に着けられなければ価値なんてないのに。
尤も、あの子の場合、私が悔しがる姿を見るのが、一番の報酬だったんでしょうね。
「あんたが悪いのよ! 伯爵令嬢だからって子爵家の私を見下して! だからあんたの大切なものを奪ってやったのよ!」
警備隊に連行されながら、リラはそう喚いていた。
私はリラの実家であるハッセン子爵家に、高額の慰謝料を請求した。
それにより、子爵家は傾くかもしれないが知ったことではない。
娘の教育を満足に出来なかったのが悪いのだから。
◆
私とリラ・ハッセンは幼馴染。
王都のタウンハウスが隣同士で、同い年なこともあり、幼い頃からよく一緒に遊んでいた。
表面上は仲の良い友人に見えただろう。
だが、私は知っていた。リラがずっと私を妬んでいたことを。
私の家が裕福な伯爵家なのに対し、彼女の家は平凡な子爵家。
そのことがずっとコンプレックスだったのだろう。
私が流行の最先端のダイヤモンドのついた髪飾りを買ってもらう時、彼女が買ってもらったのは時代遅れのエメラルドの髪飾り。
私が大きな宝石をふんだんに使った宝飾三点セットをプレゼントされた時、彼女は小さな宝石のついたブローチ一つ贈られただけ。
私が学園のテストで一番になって金貨をもらった時、彼女は二番目でケーキ一つ。
私が夏休みの大半を使って家族と隣国に豪華旅行してる時、彼女は家族と王都近郊の温泉街に一週間滞在していた。
私が世界一の時計職人に金の懐中時計をつくらせた時、彼女は市販の銀メッキの懐中時計を購入。
私が隣国で流行りの高級万年筆をプレゼントされた時、リラは祖父のお古の万年筆を譲り受けただけ。
私が予約が三年先まで埋まっている売れっ子デザイナーの一点物のドレスを纏っている時、彼女は母親が若い頃身に付けていたドレスをリメイクして着ていた。
私の婚約者は名門伯爵家の容姿端麗な次男、リラの婚約者は子爵家以下の家から気の合う人を選ぶように言われたらしい。
そんな少しずつの積み重ねが、リラのプライドを傷つけていった。
リラは私に勝ちたくて、婚約者のマックスを奪ったのだろう。
リラが盗むのは、高価なものではなく、わたしが「お気に入りなの」「大切なの」「宝物なの」と言ったものばかり。
何度か実験して、それはわかっていた。
ダイヤモンドのついたイヤリングと、刺繍入りのハンカチ。
サファイアのブローチと、安物の飾りボタン。
ルビーの指輪と、市販の香水。
二つを見せたあと、席を外し、彼女がどちらを盗むのか実験した。
彼女は私が「宝物なの」と言った、刺繍入りのハンカチ、飾りボタン、市販の香水を盗んでいった。
高価なアクセサリーには目もくれずに。
その時、確信した。
リラは高価なものではなく、私が大切にしているものがほしいんだと。
私は淡々と、彼女が家に来た日と、無くなった物のリストをノートに記録した。来たるべき日に備えて……。
ハンカチやボタンなどの安物が盗まれたのでは、リラの罪が発覚しても、彼女の罪が軽くなってしまう。
それでは困るのだ。
私は時には、ダイヤモンドや翡翠が付いた高価なアクセサリーも、「宝物なの」「お気に入りなの」と言って、彼女に盗ませた。
私が「婚約者のマックスを愛しているの」、「かけがえのない人なの」、「彼がいなければ生きていけないわ」と語れば、彼女はまんまと罠にハマり、彼を奪ってくれた。
私はマックスを愛していない。
彼は、親が勝手に決めた婚約者だ。
彼と婚約破棄する為に、もっと言えば彼の有責で婚約破棄し、慰謝料をせしめるためにリラを利用したのだ。
私の両親は、私を愛していない。
私を、アクセサリーか道具くらいにしか思っていない。
私はダイヤモンドなんて好きじゃない。
宝飾三点セットも好きじゃない。
一流のデザイナーかなんだか知らないけど、彼女の作ったドレスは重くて肩が凝る。色もデザインも私の趣味じゃない。
隣国に旅行に行った時だって、両親は仕事が忙しくて、私のことなんかほったらかしだった。
テストで一番になっても、両親は金貨をくれるだけで、褒めることも笑うこともない。
高価な万年筆も、一点物の金の懐中時計も、私の趣味じゃない。
私はリラが羨ましかった。
家族でアクセサリーショップに出かけ、自分の好きなものを買ってもらえる。
家族で温泉街に行って、楽しく過ごしている。
テストで学園で二番になったら家族に褒めてもらえて、お母様が手作りのケーキを焼いてくれた。
お母様が自分の為にドレスをリメイクしてくれた。
お祖父様が大切にしていた万年筆をプレゼントしてもらえる。
婚約者はお見合い相手の中から、気の合う人を自分の意思で選べる。
彼女には当たり前だと思っていたものが、私には羨ましくてたまらなかった。
その価値に気づかず、私のものを奪おうとするリラに辟易していた。
だから、彼女には私のために犠牲になってもらった。
両親には、「マックスとリラへの慰謝料の請求手続きは私がします。もう大人なので、このぐらいのことは一人でできます」と伝えた。
両親は多忙なのもあり、それらの処理を私に一任した。
娘が婚約者に浮気されたのに、彼らは怒ることもしなかった。
リラの家族は、私の家まで家族総出で謝りにきたのに。
両親には、婚約者の家に殴り込みをかけてほしかった。
リラの家に怒鳴り込んでほしかった。
娘の名誉が傷つけられても、涼しい顔をして仕事を優先している両親のことを、もう親とは思わない。
前々から諦めていたけど、今度のことで踏ん切りがついたわ。
私は、リラとマックスの家からの慰謝料の振込先を、自分の口座にした。
そして、実家から籍を抜いた。
あの両親のことだ、時が経てば、また私の意思に関係なく勝手に婚約者を決めてしまう。
彼らが私に勧めるものは、物でも人でも私の趣味には合わないのだ。
夏休みに隣国に旅行に行った時、商いを始める準備をしていた。
今回、二つの家から頂いた慰謝料があれば、商品の購入資金や、従業員を雇う資金、商品の開発資金に当てられる。
当面は苦労しなくて済みそうだわ。
リラありがとう。
私の踏み台になってくれて。
――終わり――
読んで下さりありがとうございます。
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【後書き】
▶主人公:ラッへ・ケーフィ
ラッへ(仕返し)、ケーフィヒ(鳥かご)
▶幼馴染:リラ・ハッセン
ハッセン(憎む)
▶婚約者:マックス・プッペ
プッペ(操り人形)
幼馴染以外、フルネームが出て来ませんでしたね(^_^;)




