第七十九話「影の接近」
報告が管理局に届いたのは、夕方だった。
北部の廃村周辺、蒼たちが調査に行った地域で、見知らぬ老人が目撃されているという話が、ベルタのギルド経由で上がってきた。その老人は特定の建物に近づくことなく、ただ周辺を歩いているだけだったが、見た冒険者が「普通の老人ではない」と感じたと報告した。
「特徴は」と蒼は聞いた。
「七十代から八十代に見えるが、動きが若い。白い長髪で、目が異様に鋭いという話です」とクルトが答えた。
「ガロウの可能性がありますか」とエムが聞いた。
「ロスタンさんとヴァーン老人から聞いた特徴と一致しています」と蒼は言った。「廃村に何かを探しに行った可能性がある」
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全員でしばらく話し合った。
ガロウが廃村周辺を動いているとすれば、何を探しているのかが問題だった。廃村には書物が残されていたが、それは蒼たちがすでに回収していた。ただし、蒼たちが気づかなかった何かが残っている可能性はある。
「北部の調査に戻るべきですか」と蒼はクルトに聞いた。
「難しいところです」とクルトが言った。「ガロウが何を探しているかわからない状態で追いかけても、後手に回るだけです。それより、ガロウが知りたいと思うものは何かを先に考えた方がいい」
「廃村の記録の続きを探している可能性があります」と蒼は言った。「書物は俺たちが持ってきていますが、石碑はまだ現地にあります。あの谷の岩壁に描かれていた絵についての情報を、ガロウが知っているなら」
「追いかけますか」
「追いかけるより、先に谷に行った方がいいです。ガロウが行く前に、岩壁の情報を完全に記録しておきたい」
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翌朝、再び北部に向けて出発することになった。
リーナが「また北ですか」と言いながら馬の準備をしていた。文句ではなく、確認の口調だった。
「また北です」
「ガロウと会ったらどうするつもりですか」
「話してみたいです」
「戦いになるかもしれないですよ」
「なるかもしれません。ただ、百三十年生きてきた人間が何を考えているのかを、知りたいです」
リーナが蒼を見た。「あなたは敵でも話そうとしますね」
「話してから判断したいだけです」
「それが蒼さんの戦い方ですね」とエムが馬に乗りながら言った。「理解することが武器になる戦い方」
「俺に他の武器がないから、そうなっているだけですが」
「でも、それで炉の問題を解決したし、ライゼル殿下を止めたし、ヴァーン老人と交渉したし、マルクスの動機を聞き出した。十分な武器だと思います」




