第七十八話「声が伝えたいもの」
ライゼルが興奮した顔で管理局に来たのは、珍しいことだった。
殿下は研究室に引きこもっていることが多く、自分から管理局に来ることは少なかった。それが朝一番で、しかも走るような足取りで廊下を進んでいた。
「蒼、いますか」
「います」と蒼は振り返った。
「見てください、これです」ライゼルが手に持っていた羊皮紙を広げた。「昨夜、解読が終わりました。建国以前の文書の中で、これだけ長い記述のあるものは初めてです」
蒼は羊皮紙を受け取った。古代語で書かれていて、《知識蓄積》が反応した。ゆっくり読み始めると、文章の構造がわかってきた。
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「これは」と蒼は言った。「炉を作った理由を、封じられた存在自身が書き残したものですか」
「そうだと思います」とライゼルが言った。「封じる前に、声自身が何かを伝えようとして書き残したものだと解釈しています」
内容を蒼が声に出して訳していくと、全員が静かに聞いた。
この世界は私が作った。ただし作ったとき、私はやり方を間違えた。作ることに集中しすぎて、作られたものが続いていくためのことを考えていなかった。世界はできたが、続いていく力が足りなかった。
炉は、私が作ったものを維持するために後から作られた。定期的に私の力を少し開放することで、世界の維持に使う。それが本来の仕組みだ。
私は眠っていたいのではない。ただ、眠っている方が世界のためになると理解してここにいる。ただし、いつか誰かが話しかけてきたなら、伝えたいことがある。作ることだけが全てではない。続くことの方が、はるかに大切だ。
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蒼は羊皮紙から目を上げた。部屋が静かだった。
「続くことの方が大切」とリーナが繰り返した。
「世界を作った存在が言っているとしたら、重みのある言葉ですね」とクルトが言った。
「七年後の対話で」とエムが言った。「この存在に伝えるべき言葉がわかった気がします」
「何を伝えますか」と蒼は聞いた。
「世界は続いています、と」エムは静かに言った。「あなたが心配していたことは、今のところ大丈夫ですと」
その言葉が蒼の胸に落ちた。封じられた存在が待っているのは、ただ解放されることではなかった。自分が作った世界が、ちゃんと続いているかどうかを知りたかっただけかもしれない。
「七年後の対話は、報告に行くようなものですね」と蒼は言った。
「そうかもしれません」とライゼルが言った。珍しく、学者の顔ではない穏やかな表情をしていた。




