第七十四話「南方の歪み」
管理局からの依頼が来たのは、魔力操作の訓練を始めて二週間後だった。
クルトが持ってきた文書には、南方の街、ヴィナという場所で魔脈の歪みが深刻化していると書かれていた。アリアが王都のギルド本部で収集した情報をもとに、管理局が現地調査を決定したという。
「アリアさんの情報が役立ちましたね」と蒼は言った。
「役立ちました。彼女の情報収集の精度が高くて、管理局の担当者が驚いていました」クルトが続けた。「ただし現地の状況が蒼さんの見立て通りなら、単なる調査では対処できない可能性があります。現地で判断できる人間が必要で、局長が蒼さんに同行を頼みたいと」
「行きます」と蒼はすぐに言った。
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翌日の朝、クルト、リーナ、エムと四人で王都を出た。南方のヴィナまでは馬で二日の距離だった。道中、クルトが集めた情報を共有してくれた。
ヴィナは農業の街で、魔脈の歪みが始まってから農作物の育ちが悪くなっているという。それだけでなく、周辺の森から普段は出てこない魔物が農地に侵入するケースが増えていた。
「王都の炉の逆転の影響が、これほど広がっているんですね」と蒼は言いながら道を進んだ。
「炉の逆転は止まりましたが、影響は広範囲に残っています。今回のヴィナだけでなく、北の方でも同様の報告が上がっています」とクルトが言った。
「全部を一度に対処するのは難しいですね」
「難しい。ただ、優先度の高い場所から順番に対処していくしかありません。ヴィナは農業への影響が深刻で、住民の生活に直接関わっているので優先度が高い」
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ヴィナに着くと、街の様子がすぐにわかった。農地の一部が変色していて、正常に育っていない作物が並んでいる。農民たちの顔が暗かった。
街長に挨拶して、現地を案内してもらった。歪みが一番強い場所は、街の東側の低地だという。そこに行くと、《知識蓄積》が強く反応した。地下の魔脈に、明確な乱れが残っていた。
「観測地点を設置すれば、管理局で継続監視できます」とクルトが言った。「ただし歪みそのものを解消するには別の手段が必要です」
「試したいことがあります」と蒼は言った。
全員が蒼を見た。蒼は低地の中心に立って、最近訓練していた周囲の魔力を引き寄せる感覚を試みた。地下の魔脈の乱れは、流れの方向がずれていることが原因だった。そのずれを正しい方向に誘導できるかどうか。
頭の中に魔法陣の構造をイメージした。経路を修正する陣だった。それを頭の中で作りながら、周囲の魔力を引き寄せた。
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《知識蓄積》深度展開
周辺魔力操作・初段階発動
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微量だったが、確かに地下の流れが少し変わった。完全に修正したわけではなかったが、乱れが和らいだのをエムが確認した。
「できましたね」とエムが静かに言った。
「少しだけですが」と蒼は答えた。体の中で何かが消耗した感覚があった。魔力ではなく、別の何かを使っている感じだ。
「何を消耗しましたか、今」とエムが聞いた。
「よくわかりません。魔力ではないと思います」
「《知識蓄積》の蓄積量を少し消費した可能性があります。情報を操作するためにリソースを使った」
「それは補充できますか」
「蓄積し直せばいい。ただし今回わかったことは大きいです。あなたは魔力ゼロで、魔脈の歪みを修正する行為ができた」




