第七十三話「魔力ゼロの魔法研究」
「魔法を教えてほしいです」
エムは蒼の言葉を聞いて、少し間を置いてから言った。「魔力がゼロですが」
「わかっています。魔力を使う魔法ではなくて、魔法陣の構造を理解したいです」
「なぜですか」
「炉に、魔法陣を知識として保有して別の方法で駆動できる段階が来るかもしれないと言われました。その準備です」
エムが少し考えてから頷いた。「わかりました。ただし、普通の魔法の授業とは別のアプローチが必要になります。魔法は理解するものではなく、感覚で覚えるものとして教えられることが多い。あなたの場合は逆にする必要があります」
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エムによる魔法陣の構造講義は、毎日夕方の一時間から始まった。
魔法陣は基本的に三つの要素で構成されているとエムは説明した。目的を定める中核部、魔力を流す経路部、そして効果を発現させる出力部だ。この三つの組み合わせで、全ての魔法が作られている。
「魔法を使うときは、普通は頭の中で魔法陣のイメージを作って、魔力を流します」とエムは言った。「ただしあなたは魔力がないので、それができない。ただ、《知識蓄積》でこの構造を完全に理解していれば」
「魔力の代わりに何かを流す可能性がある、ということですか」
「そう考えています。ただし何を流せるかは、まだわかりません」
蒼は毎日エムの講義を受けながら、並行して炉の地下での接続訓練を続けた。《知識蓄積》が魔法陣の構造を記録していくにつれて、頭の中で陣の組み替えができるようになってきた。素材を変えたり、経路を変えたりして、より効率的な陣を設計する感覚だった。
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一週間が経った頃、蒼は訓練中に奇妙な感覚を経験した。
魔法陣の構造を頭の中でイメージしながら、限界まで集中していたとき、指の先がわずかに光った。
「今何かしましたか?」とエムが言った。
「イメージしていました」
「魔力が動きました。ゼロのはずなのに、微量ですが確かに動きました」
二人で状況を確認した。蒼の体内の魔力はほぼゼロのままだったが、周囲の空気中に存在する微量の魔力が、蒼の指先に向かって流れたという現象が起きていた。
「周囲の魔力を引き寄せた、ということですか」
「そう解釈できます」とエムは言った。「炉との接続が深まったことで、周囲の魔力に干渉できる何かが生まれているのかもしれない。体内の魔力ではなく、外部の魔力を操作できる可能性があります」
蒼はその言葉を聞いて、頭の中で整理した。魔力ゼロのままでも、周囲の魔力を媒介にして魔法陣を駆動できるなら、それは事実上の魔法に近いことができるということになる。
「まだ微量ですが」とエムは続けた。「可能性は証明されました」




