第七十二話「スキルの壁」
《限界突破》が反応しにくくなったことに気づいたのは、訓練を始めて一週間が経った頃だった。
オークとの稽古を続けていたが、最近は彼の打撃をある程度受け流せるようになっていた。それは確かな成長だったが、逆に言えば《限界突破》が発動する強度に届かなくなっているということでもあった。発動するには、今の自分にとって本当の危機に近い状況が必要になっていた。
リーナに話すと、彼女は少し考えてから言った。
「Bランク以上の魔物と戦う依頼を受ければいい」
「危険です」
「それが目的でしょ」
「俺の言う危険は、一緒に来てくれる人が危ないということです」
「なら私が来なければいい」
「そういう話でも」
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二人でしばらく話し合って、結論は出なかった。
エムに相談すると、彼女は別の角度から提案した。「《限界突破》の発動条件を広げることはできないですか。今はダメージを受けることで発動していますが、それ以外の方法で発動させる可能性を探る」
「他の方法というのは」
「炉との接続が深まったことで、スキルの性質が少し変わっている可能性があります。以前は物理的なダメージだけで発動していたが、今は別のトリガーがあるかもしれない。炉に聞いてみることを勧めます」
翌日、炉の地下に降りた。
「《限界突破》の発動条件について聞きたいです」と蒼は炉に語りかけた。
「何が聞きたい」
「ダメージ以外のトリガーがありますか」
炉が少し間を置いた。「ある。ただし今のお前にはまだ難しい」
「どんな方法ですか」
「極限の集中状態を作り出すことだ。本来《限界突破》は身体の限界を書き換えるスキルだが、その本質は認識の限界を書き換えることにある。殴られることで認識が書き換えられるのと同じように、精神の限界を意図的に押し広げることで発動できる段階がある」
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「極限の集中状態とは、具体的にどういう状態ですか」
「命がけの状況で、なおかつ冷静に頭が動いている状態だ。お前はすでにその経験を持っている。炉の地下でマルクスに攻撃を受けながら、接続を続けていたあの瞬間だ」
蒼はその夜のことを思い出した。確かにあの瞬間、痛みの中で頭だけが奇妙なほど冷静だった。
「あの状態を意図的に作り出せば、ダメージなしで発動できますか」
「今すぐは難しい。ただ、訓練で近づけることはできる。剣の修練でも、魔法の集中でも、何か一つのことを限界まで追い込むことで、その状態に近づける」
「どのくらいかかりますか」
「お前次第だ。ただ、七年あれば確実に到達できる」
蒼は炉から離れながら、その言葉を頭に入れた。七年という期間が、様々な問題に対する答えとして繰り返し出てきていた。七年という時間を信じることと、七年では足りないかもしれないという緊張感の両方を持ちながら、進んでいくしかないと思った。




