第七十話「百年の老人」
ロスタンを訪ねると、老師はすでに蒼が来ることを知っていたような顔をした。
「ガロウ・ルドーリンについて聞きに来たんですね」とロスタンは言った。
「知っていたんですか」
「知っていました。ただし、言うべきタイミングを見ていた」
「そのタイミングが今ですか」
「あなたが自分でその名前に辿り着いた今が、その時だと思っています」ロスタンが蒼を執務室に招き入れた。「座りなさい。長い話になります」
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ガロウ・ルドーリンは百三十年前に生まれた。
星読み神殿で長く高僧を務め、魔脈の観測に精通していた。優れた研究者だったが、ある時期から研究の方向が変わった。炉の本来の機能を逸脱した使い方を模索し始めた。
「彼が炉の解放を計画した動機は何ですか」と蒼は聞いた。
「長生きしたかったのです」とロスタンは言った。「それだけです」
蒼は少し拍子抜けした。百年以上かけた壮大な計画の動機が、それだけだとは思っていなかった。
「炉の力を吸収することで老いを止められることを発見した。ただし炉の力は簡単には吸収できない。封印された存在の力を引き出すには、炉の解放機構を完成させる必要があった。そのために百年以上かけて準備を進めてきた」
「マルクスもヴァーン老人も、ガロウに利用されていたということですか」
「直接ではなく、間接的に。ガロウは人を動かすのが巧みで、それぞれの動機に乗じて計画を進めてきた。本人は表に出ず、代わりに動く人間を用意し続けてきた」
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「今の居場所はわかりますか」と蒼は聞いた。
「わかりません。ただ、彼は炉の状態を今でも監視しているはずです。封印が維持されたことを知っているはずで、次の手を考えている可能性があります」
「七年以内に動いてきますか」
「動くと思います。炉の力なしに彼の命がいつまで続くかはわかりません。焦っている可能性がある」
蒼はその情報を頭の中に入れた。七年後の調整に向けての準備と、ガロウへの対処という二つの問題が、同じ時間軸の中にある。どちらが先に動くかはわからない。
「ガロウが動いてきたとき、対処できますか」とロスタンが聞いた。
「今の俺には難しいです。ただ七年あります」と蒼は言った。「七年後に動いてきたとき、ちゃんと対処できるようにします」
「その答えを聞いて安心しました」とロスタンは言った。「あなたが焦っていたら、心配だった」
「焦っても状況は変わらないので」
「そういう人間が、一番強くなる」とロスタンは静かに言った。




