第六十七話「ランクの意味」
Cランクになった翌日、蒼はギルドで新しいランクカードを受け取った。
Gと刻まれていたカードが、Cになっていた。たった一文字の違いだが、その重さが違った。転生してから一か月半。全部Fのステータスだった最弱が、Cランクまで来た。
受付で手続きをしていると、後ろから声がかかった。
「Gランクが急に昇格したと聞いたんだが、お前か」
振り返ると、オークがいた。訓練場で稽古をつけてくれたCランクのベテランだ。
「そうです。お世話になりました」と蒼は言った。
「審査の話を聞いた。Cランクの相手を抑えたというのは本当か」
「本当です。ただ実力で勝ったというより、観察で勝ったので、実際の戦闘では違う結果になるかもしれません」
「それが実力だ」とオークが言った。「強さは筋肉だけじゃない。頭を使えるのが一番の武器だと、二十年やってそう思う」
────────────────────────
その日の夕方、ライゼル殿下から呼び出しがあった。
研究室に行くと、殿下が興奮気味に書類を並べていた。古代語の文書がいくつか広げられていて、その横に殿下のノートが山積みになっていた。
「見てください」とライゼルは言った。「昨日から解読を続けていた文書で、大きな発見がありました」
蒼が書類を見ると、《知識蓄積》が強く反応した。
「封じられた存在の名前が書いてあります」とライゼルが言った。「この文書に、直接名前が出てくる。現代語に訳すと、おそらく」殿下が少し考えた。「世界の始まりの声、という意味になります」
「世界の始まりの声」
「建国以前の伝承では、この世界は声から生まれたとされていました。創造の音が世界を形作った、という考え方です。封じられた存在がその声だとすれば、炉が世界の創造の痕跡を封じているというのと一致する」
蒼はしばらくその言葉を頭の中に置いた。世界を作った声が、炉の下に封じられている。それと七年後に対話しなければならない。
「その存在は、何を伝えたいと思いますか」と蒼は殿下に聞いた。
「文書の中に示唆があります」ライゼルが別の書類を指した。「声は別れを告げたいのかもしれない、と書いてある。世界を作った後、声はここに留まり続けた。次の段階に進めずにいた。それを誰かに聞いてもらって、次に進みたいと」
────────────────────────
帰り道、蒼は空を見上げながら歩いた。
世界を作った存在が、誰かに別れを告げたくて待っていた。百年以上、炉の下で。その相手が自分だとすれば、これは単純な問題ではなかった。
七年後に対話するということの意味が、また少し変わった。
戦うのではなく、話を聞く。それが、次の調整の本当の意味だとしたら、今から準備できることがある。聞く準備だ。相手が何者で、何を伝えたいのかを、少しでも理解した上で臨むこと。
宿に戻るとリーナが夕食を頼んでいた。蒼が座ると、彼女が言った。
「難しい顔してる」
「考えていました」
「ライゼル殿下に何か聞いた?」
「封じられた存在の名前がわかりました。世界の始まりの声、というらしいです」
「世界の始まりの声」リーナが少し考えた。「それと対話するということは」
「声を聞く、ということだと思います」
「ロマンチックな話ですね」とリーナが言った。
蒼は少し笑った。ロマンチックという言葉は、この文脈では予想していなかった。でも考えてみれば、そうかもしれなかった。世界を作った存在が、誰かに別れを告げるのを待ち続けた。その相手に選ばれた。確かに、ロマンチックとも言えた。




