第六十五話「Bランクの訓練場」
王都のギルドには、Bランク以上の冒険者を対象とした特別訓練場があった。
管理局の訓練場より広く、本格的な模擬戦ができる設備が整っていた。参加費がかかるが、それに見合う質があるとリーナが説明した。
「Gランクの俺が入っていいんですか」と蒼は聞いた。
「私が連れて行くなら問題ない。Bランク以上の冒険者の同伴者という扱いで入れます」リーナが蒼を見た。「それに、早めにランクを上げた方がいい。Gランクのままでいると、行動範囲が制限される場面が出てくる」
「それはそうですね」
「今の実力はGランクじゃないし、昇格審査を受ける価値はあると思います」
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訓練場に着くと、すでに数人の冒険者が模擬戦をしていた。全員Bランク以上で、動きが明らかに違う。速さと精度と判断が、アルガで見ていた冒険者たちとは別格だった。
蒼はしばらくその動きを見ていた。見ているだけで《知識蓄積》が反応していた。動きのパターン、足の踏み方、攻撃と防御の切り替えのタイミング。情報として積み重なっていく。
「どうですか」とリーナが横に来て言った。
「情報が多くて頭が楽しいです」
「戦士が戦い方を見て覚えると言う。あなたの場合はそれが加速されているのかもしれない」
「でも体がついてこないと意味がないですよね」
「だから来たんです。動きを頭に入れながら、体も動かす」
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リーナが指導役になって、蒼は三時間の訓練を受けた。
最初は基礎的な体の使い方から始まった。剣を持たなくても、体の重心の移動だけで攻撃の威力が変わる。リーナがゆっくり見せながら説明した。蒼は見て、真似して、失敗して、また見た。
途中で、訓練場の端にいた一人のCランクの男が近づいてきた。四十代で、傷の多い顔をしていた。
「Gランクか」と男は言った。蒼のカードを見て言った。
「そうです」
「リーナが指導してるのを見ていたが」男が少し考えてから言った。「手合わせをするか。俺はFランクの頃から経験があるから、適切な負荷で稽古できる」
予想外の申し出だった。蒼はリーナを見た。リーナが頷いた。
「お願いします」と蒼は言った。
男はオークといって、冒険者歴二十年のベテランだった。彼の稽古は丁寧で、蒼の反応を見ながら負荷を調整してくれた。的確な打撃が来て、《限界突破》が少しずつ反応した。
二時間後、蒼がステータスを確認するとわずかだが上昇していた。
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《限界突破》発動
体力:C+ → B−
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体力が初めてBに届いた。Fから始まってB−まで。一か月と少しかけた積み重ねが、数字として見えた。
「なかなかいい動きをする」とオークが言った。「Gランクとは思えない」
「スキルが戦闘向きなので」と蒼は言った。
「何のスキルだ」
「殴られるほど強くなるスキルです」
オークがしばらく蒼を見て、それから笑った。「そいつは大変なスキルだな」
「大変です」と蒼も笑った。




