第六十三話「組織を変える方法」
ガーレン局長に呼ばれたのは、炉の地下から戻った翌日だった。
局長室に入ると、ガーレンは珍しく疲れた顔をしていた。デスクの上に書類が山積みで、窓から差し込む光が書類の白さを際立たせていた。
「座ってください」と局長が言った。
「お疲れですか」と蒼は座りながら聞いた。
「炉の問題が片付いてから、やらなければならないことが増えました。ヴァルク村の記録復元、地方の魔脈の歪みへの対応、マルクスの件の後処理」局長がため息をついた。「管理局の人員と予算では、全部を同時に進めるのが難しい」
「何か手伝えることがあれば言ってください」
「相談があります」ガーレンが蒼を見た。「管理局の改革についてです。マルクスが言ったことは、一部は正しかった。地方の被害に対応できていなかった問題は、組織の構造的な問題です。直したい。ただどこから手をつければいいか」
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蒼は少し考えた。組織改革という話は、転生前には縁のなかった話だ。ただ、この一か月でこの世界の問題を追いかけてきた経験が、考える材料を与えてくれていた。
「一番の問題は、観測地点が少ないことだと思います」と蒼は言った。「魔脈の乱れを早期に把握できれば、地方の被害が深刻になる前に動ける。そのためには観測地点を増やす必要があるし、増やすには費用がかかる。費用を捻出するには、優先順位の組み替えが必要です」
「優先順位の組み替えというと」
「王都中心の観測から、地方分散型の観測に切り替える。王都の観測地点の数は今のままで十分で、そこに使っていた費用の一部を地方に回す。観測地点が増えれば、問題の早期発見ができる。早期発見で対応コストが下がれば、中長期的には費用が減ります」
ガーレンが少し考えてから言った。「理屈はわかります。ただ、地方の観測地点を管理する人員が必要になります」
「ギルドと連携できないですか。冒険者ギルドは各地に支部があります。観測地点の定期確認を依頼として出せば、人員を別途雇用するより費用が抑えられます」
「ギルドに管理局の業務を委託するということですか」
「全部ではなく、確認業務だけです。異常の判断と対応は管理局が担う。確認だけを委託する」
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ガーレンが書類にメモを取り始めた。蒼は話しながら、自分がこういう話を当たり前にするようになっていることに気づいた。転生前なら、組織改革の提案なんて考えたこともなかった。一か月でいつの間にかここまで来ていた。
「もう一つ」と蒼は続けた。「消された歴史の記録復元について、ライゼル殿下を正式に協力者として引き込めないですか。殿下は古代史の研究者で、この分野での能力は管理局より高いです。それに、今回の件で殿下は管理局に借りがある立場でもある」
「第一王子との協力関係を正式に結ぶということですか。政治的に複雑ですが」
「複雑な部分は王家との交渉で処理するとして、研究者としての殿下と管理局の学術的な協力関係というかたちにすれば、政治的な問題が小さくなると思います」
「なるほど」ガーレンが蒼を見た。「あなたは転生してどのくらいですか」
「一か月と少しです」
「一か月の転生者が、こういう提案をしてくる」局長が苦笑した。「管理局に来てもらえればいい仕事ができますが」
「しばらくは外を動く必要があります」
「わかっています。ただ、いつでも戻ってきてください」




