第六十話「七年の地図」
山道を下りながら、蒼は頭の中に地図を描いた。
目的地ではなく、時間の地図だった。七年という期間を、どう使うかの。
封印された存在と対話するためには、まず封印された存在が何かを完全に理解する必要がある。炉は世界の創造の痕跡と言っていたが、それ以上の詳細はわかっていない。消された歴史の中に、その手がかりがある可能性が高い。まだ見つかっていない記録が、王国のどこかに眠っているはずだ。
それと、自分自身の力を上げること。今のステータスでは、次の調整の場で何かあったときに対処できない。《限界突破》は死線を越えるたびに上がる。七年あれば、今よりずっと上げられるはずだ。ただ効率の問題がある。毎回危険に飛び込むだけでは、積み上げるのに時間がかかりすぎる。
もっと体系的な方法を考える必要があった。
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ランスの街に戻って一泊して、翌朝に王都へ向けて出発した。
馬を並べながら、エムが言った。「七年という話を聞いて、どう思いましたか」
「正直に言うと、安心しました」と蒼は答えた。
「安心?」
「時間があるということが、です。炉の逆転のときは二十二日しかなかった。七年あれば、準備ができます」
「七年でも足りないという考え方もできます」
「どちらの考え方をするかで、動き方が変わります。俺は七年あると思いたい」
エムが少し笑った。「楽観的ですね」
「楽観的というより」と蒼は言った。「悲観的に考えても動く量は同じなので、だったら前向きに考えた方が動きやすい、という計算です」
「計算で楽観的になるんですか」
「なりますよ」
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帰り道の三日間、蒼は頭の中で整理を続けた。
七年間で取り組むべきことをリストにした。まず消された歴史の記録を全て集めること。四つの一族の全員と、炉の次の調整に向けた協力関係を確立すること。封印された存在の性質と目的を理解すること。自分のステータスをできる限り上げること。そして《知識蓄積》と《限界突破》の可能性をもっと引き出すこと。
量は多かったが、蒼には不思議とできる気がしていた。一か月前は全部Fのステータスで、森の中で魔物に殴られていた。それが今、炉の封印を維持して、王都の内戦を回避して、廃村の記録を見つけていた。一か月でそこまで来られたなら、七年でどこまで行けるかは想像できなかった。
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王都の城壁が見えてきた。
夕日が壁を赤く染めていて、城門の旗がゆっくり揺れていた。前回ここを通ったのは夕暮れだったと思い出した。あのときは不安の方が大きかった。今回は違った。
「帰ってきたね」とリーナが言った。
「帰ってきました」
「次はどこに行くつもりですか」
「まずヨルダさんに会います。それから、次の行き先を決めます」
「七年かけて、全部片付けるつもりですか」
「片付けるというより」と蒼は少し考えた。「七年後に、ちゃんと立っていられるようにしたいです。その場に必要な人間として」
リーナが蒼を見た。夕日の中で、彼女の銀髪が赤く染まっていた。
「必要な人間には、もうなってると思うけど」
蒼は何も言わなかった。城門が近づいてくる中で、前だけを見ていた。その胸の奥に、小さく確かな熱があった。転生してから一か月。全部Fだった最弱の男は、今ここに立っていた。
七年後、どこに立っているかは、まだわからない。ただ、立ち続ける理由は、もう十分なほどあった。




