第五十九話「もう一人のラーデン」
谷を出て山道を戻り始めたとき、道の途中に人が立っていた。
三十代ほどの男で、旅装をしている。武器は見えないが、立ち姿に隙がなかった。蒼は立ち止まった。リーナが剣の柄に手を近づけた。
「待ってください」と男は言った。穏やかな声だった。「敵意はありません。ヨルダに頼まれて来ました」
「ヨルダさんに?」
「私はセン・ラーデンと申します。ヨルダの甥で、ラーデンを継ぐ者の一人です」
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その場で話を聞くことにした。全員が岩に腰掛けて、センが向かいに立った。
センが語ったことは、ヨルダが直接語らなかった理由から始まった。ヨルダは五十年間王城にいて、多くの人物に見られている。彼女が蒼たちに全てを話す場面を誰かに見られれば、情報が漏れる可能性がある。王城の中は、まだ信頼できない人間がいる。だから、外に出られる自分が代わりに来た、というのがセンの説明だった。
「ヨルダさんが話したいことというのは何ですか」と蒼は聞いた。
「二つあります」とセンが答えた。「一つ目は、百年前の改修を主導した人物について」
「まだわかっていませんでした」
「わかっています。ただし、ヨルダはずっと言えなかった。その人物が今も生きているからです」
蒼は少し驚いた。百年前の人物が今も生きているということは、百年以上の寿命を持っているということになる。
「どうやって百年以上生きているんですか」
「炉から力を得ています。炉が逆転し始めてから、その人物の力が増している。炉の問題の本当の黒幕は、マルクスでも改修を主導した人物でもなく」センが蒼を見た。「その人物に力を与え続けてきた誰かです」
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「二つ目は何ですか」とエムが聞いた。
「炉の次の調整について。百年ごとに必要だという話は聞いたかと思いますが」
「聞きました」と蒼は言った。
「次の調整が必要になるのは、百年後ではありません。炉の逆転が進んでいた間に、封印された存在の状態が変化しました。次の調整が必要になるのは」センが少し間を置いた。「七年後です」
しばらく誰も何も言わなかった。
「七年で準備する必要があるということですか」とリーナが言った。
「そうです。ヨルダはそのことを伝えたかった。次の調整には、今回以上の準備が必要になります。四つの一族全員が揃う必要があって、炉との対話者も必要で、封印された存在への理解も必要です」
「理解というのは」
「今回は封印を維持することができました。しかし次の調整は、封印を維持するだけでは足りない。封印された存在と、直接対話する必要があります」
蒼は山の向こうを見た。七年。長いようで、短い。
「わかりました」と蒼は言った。「七年で準備します」




