第五十八話「呼び声」
返信が届いたのは、廃村から二日後だった。
ベルタより北のランスという小さな街で馬を止めて休んでいると、管理局の飛脚がクルト宛に文書を持ってきた。ガーレン局長からの報告と、ヨルダへの伝達の結果だった。
クルトが文書を読んでから蒼に渡した。蒼も読んだ。
「ヨルダさんが話したいと言っている」
「王都に戻る必要があります」とエムが言った。
「そうですね」と蒼は答えた。ただ、すぐに王都に戻るべきかどうかを少し考えた。北部の調査はまだ終わっていない。消された集落の記録は見つかったが、他にも何かある可能性がある。
「どうする」とリーナが聞いた。
「もう少しだけ北を確認してから戻りたいです。ランスからさらに一日北に進んだ場所に、ライゼル殿下が言っていた記録の断絶地点があります。そこだけ確認して戻ります」
「どのくらいかかりますか」
「往復で三日ほど」
「了解」とリーナが言った。
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一日北に進んだ場所は、山と山の間の谷になっていた。
谷の入口に、石碑が立っていた。風雨に削られて文字が薄くなっていたが、《知識蓄積》で読み取れた。
「境界の碑」と蒼は読んだ。「この先はかつて神聖な地とされていた。立ち入る者は記録と記憶を持ち帰ること、という意味です」
「何の神聖な地ですか」とエムが聞いた。
「炉の材料を最初に発見した場所、と書いてあります」
谷の中に入ると、地面の質が変わった。岩盤が露出していて、その色が他の場所と違った。青みがかった灰色で、蒼は似た色を見たことがあった。調律炉の本体の表面の色だ。
「炉の素材と同じ色です」と蒼は言った。
「炉と繋がっています」とエムが岩盤に触れながら言った。「弱いですが、まだ魔力の流れがある。ここが炉と同じ性質の地盤の上にある」
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谷の奥まで進むと、岩壁に刻まれた大きな絵が見つかった。
文字ではなく、絵だった。四つの人型が描かれていて、中心に円形の何かを囲んでいる。炉を囲む四つの一族を描いたものだと、すぐにわかった。
蒼はその絵を見ながら、《知識蓄積》が反応するのを感じた。ただし今回は情報が流れ込んでくるのではなく、何かが放出される感覚があった。
「スキルが反応しています」と蒼は言った。「でも今回は、情報を蓄積するのではなく、外に出ていく感じがします」
「炉に信号を送っているのかもしれません」とエムが言った。「ここが炉と繋がった場所なら、あなたのスキルが炉に何かを伝えている可能性があります」
蒼は岩壁の前に立って、静かに意識を向けた。炉に何かを伝えるとすれば、何を伝えるべきか。考えた結果、一言だけ送った。
「記録を持ち帰りました」
返答はなかった。ただ、岩盤の青みがかった色が、一瞬だけ強くなって消えた。気のせいかもしれない。でも蒼は、届いたと思った。




