第五十七話「ヨルダが知ること」
書物を慎重に包んで馬の荷袋に入れた。百年以上前の記録が、状態を保ったまま見つかったことは、炉の問題の続きを理解するために重要だと思った。
廃村を出て山道を下りながら、蒼は三冊目の最後の文章を頭の中で繰り返した。
ラーデンの一族だけが炉の全てを知っている。
ヨルダ老侍女は五十年間王城に仕えて、炉の観測を続けていた。炉の逆転が起きたとき、彼女は気づいていたはずだ。なのに蒼たちに話しかけてこなかった。会いに来たときも、重要な情報を全部伝えたわけではないという気がしていた。
「クルトさん、ヨルダさんは管理局に連絡を取ることはありましたか」と蒼は聞いた。
「私は接触したことがないです。ただ」クルトが少し考えた。「局長は接触があったかもしれない。直接聞いたことはないですが、局長の情報源の中に王城の人間がいる可能性は前から思っていました」
「ガーレン局長はヨルダさんから情報を得ていたかもしれない」
「可能性はあります」
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山を下りてベルタで一泊してから、王都への伝達文書を作った。廃村で見つけた記録の内容をクルトが整理して、ガーレン局長宛に送った。
その中に蒼が一文だけ追加した。「ヨルダさんに、ラーデンの一族が知っていることの全てを聞かせてほしいと、局長から伝えてほしい」
クルトが送る前に蒼を見た。「局長が知っているとは限らないですが」
「知っていたとしても、知らなかったとしても、この一文を送る価値はあると思います」
「なぜですか」
「ヨルダさんが何を知っているか、局長が把握しているかどうかを確認できるからです」
クルトが少し考えてから頷いた。「わかりました」
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伝達を出した翌日、北の山道をさらに進みながら、エムが蒼に話しかけた。
「炉が残した書物のことを考えていました」とエムが言った。
「どんなことを」
「日誌を書いた人物は、逃げることを選んだ。ヴァルク村の人々は逃げなかった、消された。同じ時代に、同じように炉に関わっていた人々が、違う選択をした」
「それが今につながっている」
「はい。逃げた人が記録を残して、消された人の一族が力を継いで」エムが少し間を置いた。「どちらが正しかったということではなくて、両方が必要だったんだと思います」
「どちらかだけでは、今に届かなかった」
「そうです」
リーナが二人の話を聞いていた。「なんか、すごく長い話ですね」
「百年以上かけた話なので」と蒼は言った。
「私たちはその最後の部分にいるわけですね」
「最後、かどうかはまだわかりませんが」蒼は山の向こうを見た。「続きがある気がします」




