第五十六話「廃村の記録」
ベルタの街に戻ってハルクと別れた。
「また会うかもしれないな」とハルクは言った。蒼が「そうですね」と答えると、ハルクは少し笑って街に入っていった。不思議な縁だと思った。アルガで絡んできた男が、北の山道で戦場を共にすることになるとは思っていなかった。
そこから二日、さらに北に進むと、街道が細くなって山の入口に差し掛かった。ライゼルから聞いていた、消された集落の場所に近い。
山道を一時間ほど登ると、開けた場所に出た。
廃村だった。
石造りの建物の基礎が草に埋もれていて、柱の残骸が所々に残っている。広場に使われていたと思われる平らな石畳が、苔に覆われながらも形を保っていた。百年以上前に人が住んでいた場所の雰囲気が、確かにあった。
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全員で廃村を歩いた。
《知識蓄積》が弱く反応し続けていた。情報を積極的に取り込んでいる感じではなく、何かを感知しているような反応だった。
廃村の端に差し掛かったとき、一つだけ状態の良い建物があった。他の建物が石の基礎しか残っていないのに対して、その建物は石壁がそのままの形で残っていた。出入口の木の扉も、腐り果てていたが原型をとどめていた。
「ここだけ状態が違います」とクルトが言った。
「何か保護されているのかもしれません」とエムが言った。彼女が壁に手を当てると、少し驚いた顔をした。「魔法がかかっています。保存の魔法です。誰かが意図的に残した」
「入れますか」
「入れます」
扉を慎重に開けると、内部は外より状態が良かった。棚が残っていて、その上に何冊かの書物が並んでいた。紙が黄ばんでいたが、文字は読めた。
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蒼は書物を手に取った。最初の一冊を開くと、《知識蓄積》が強く反応した。
「この書物の言語、炉の文字と同じ形式です」と蒼は言った。「建国以前の言語です」
「読めますか」
「読めます」
内容を読み始めると、それが記録ではなく、日誌に近いものだとわかった。書いた人物は、この集落に住んでいた鉱夫で、炉の材料となる鉱石の採掘に携わっていたと書かれていた。
そして日誌の後半に、別の内容が書かれていた。
あの人たちが来た。村から出ていくよう言われた。理由は言わない。ただ、出ていかなければ村が消えると言った。みんなで話し合って、出ていくことにした。出ていく前に、記録を残しておきたかった。炉のことを、次の誰かに伝えたかった。
日誌はそこで終わっていた。
「逃げられたんです」とリーナが言った。「ヴァルク村と違って、この人たちは逃げた」
「だからここに記録が残っている」と蒼は言った。
残りの書物も確認した。炉の材料となった鉱石の性質、採掘の方法、炉の建設に関わった一族の名前。全部で三冊あった。
三冊目の最後のページに、一つの文章があった。
「もし後の時代に誰かがここを見つけたなら、頼みがある。ラーデンの一族に、この記録を届けてほしい。彼らだけが、炉の全てを知っている」




