第五十五話「山道の戦い」
採掘場への山道は、両側を岩に挟まれた細い道だった。
高さのある岩場が続いていて、一か所だけ視界が開ける場所がある。採掘作業員の話では、その開けた場所に魔物がいるという。蒼は道を歩きながら、地形を頭に入れていった。
岩場の出口付近まで来ると、前方から低い声が聞こえてきた。
魔物は大型の爬虫類に似た形をしていて、四本足で体長が三メートルほどあった。皮膚が岩と同じ色をしていて、じっとしていると岩に見える。蒼には二体の気配があった。
「Cランク、か」とハルクが言った。「戦ったことはあるが、岩場だと動きが読みにくい」
「左右の岩の上に一体ずつ登れる可能性があります」とリーナが言った。「上から来られると厄介」
蒼は地形をもう一度確認した。岩場の出口の右側だけ、高い岩の上に草が生えている。そこだけ足場になる平らな部分がある。左側は切り立っていて登れない。
「右側だけ注意が必要です。左は登れない地形なので」と蒼は言った。
「どうわかった」と哈ルクが聞いた。
「左の岩の表面が垂直に近くて、草も生えていないので。Cランクの魔物でも足場がなければ登れない」
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前衛をリーナとハルクが担い、蒼とエムが後ろに下がった。クルトは情報収集と万が一の対処を担うという配置になった。
二体の魔物が動き始めた。予想通り、一体が右の岩場を登ろうとした。もう一体が正面から来た。
「ハルク、正面を頼みます。リーナさん、右の岩場に向かってください」と蒼が言った。
リーナが右に動いた。ハルクが正面の魔物に向かって剣を抜いた。
「《破砕牙・轟》」
ハルクの剣が地面を叩いた瞬間、衝撃波が地面を走って魔物の足元を揺らした。魔物が体勢を崩した隙に、ハルクが踏み込んで深く斬りつけた。Dランクの実力は、一か月前に会ったときとまったく変わっていなかった。力強く、真っ直ぐな戦い方だった。
右の岩場では、リーナが登ろうとする魔物の前に立っていた。
《流星連剣》が炸裂した。岩に前足をかけた魔物に向かって連続斬撃が叩き込まれて、魔物が岩から落ちた。落ちた魔物に追撃を加えようとしたとき、蒼は別の動きに気づいた。
「後ろです」と蒼は叫んだ。
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三体いた。
岩の影に潜んでいた一体が、蒼たちの後方から動き始めていた。エムが魔法の準備をしようとしたが、距離が近かった。
蒼は動いた。
考えたわけではなかった。エムが狙われているとわかった瞬間、体が動いていた。岩を蹴って、魔物の前に立った。
爪が来た。
受けた。
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《限界突破》発動
体力:C → C+
筋力:D− → D
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吹き飛ばされながら岩に背中を打ちつけたが、立ち上がれた。体が熱かった。今度の数値の上昇は、以前より大きかった。
エムが蒼を見た。「大丈夫ですか」
「大丈夫です。魔法お願いします」
「《冥轟・断》」
エムの呪文とともに、凝縮された魔力の球が魔物に直撃した。エムの戦闘を初めて見た。普段感情を見せない彼女が、魔法を放つときだけ表情が変わった。静かな集中の顔だった。
三体目が倒れた。
全員が無事を確認して、リーナが蒼に近づいた。
「前に出た」
「エムさんが近かったので」
「それはわかる。でも」リーナが少し間を置いた。「あなたが前に出るようになってきた」
「まずいですか」
「まずくない。ただ、びっくりした」
ハルクが近づいてきて、蒼の背中の傷を見た。「お前、これ受けたのか」
「受けました」
「笑ってる」
「笑ってますか?」
「笑ってる」ハルクが呆れた顔をした。「本当に何なんだお前は」




