第五十三話「草地の異変」
翌朝早く、蒼は一人で街の外に出た。
依頼の薬草はすぐに見つかった。街の近くの草地に群生していて、慣れた手つきで採取した。荷物運びと薬草採取を繰り返してきたおかげで、目的の植物の見分け方は体に染みついていた。
依頼分を確保してから、もう少し歩いた。習慣みたいなものだった。余分に歩くと、余分な発見がある。
草地の端に差し掛かったとき、足が止まった。
植物の色が変わっていた。一部の区画だけ、葉の緑が黄ばんでいて、茎が弱くなっている。病気とも虫害とも違う。これはアルガの周辺で、魔脈の乱れが起きていた時期に似た変化だった。
蒼はその区画をしばらく観察した。範囲は小さかった。ここだけの局所的な問題かもしれない。ただ、炉の封印が維持されたはずなのに、こういう変化が起きているのは気になった。
────────────────────────
宿に戻ってエムに話すと、彼女はすぐに現地を見に来た。草地を確認して、少し考えてから言った。
「炉の逆転は止まりました。ただ、逆転していた間に流れ出た魔力の歪みが、まだ各地に残っている可能性があります。王都の炉が正常化されても、地方の魔脈に染みついた歪みが消えるまでには時間がかかる」
「どのくらいかかりますか」
「わかりません。自然に解消するかもしれないし、場所によっては固定化するかもしれない」
「固定化するとどうなりますか」
「その地域の生態系に影響が出続けます。植物だけでなく、魔物の行動にも影響する可能性があります」
蒼は草地をもう一度見た。ここ一か所だけの問題ではない可能性がある。北に向かうにつれて、炉の影響が強かった地域に近づいていくことになる。途中で同じような異変を見ることになるかもしれない。
「記録しながら進みましょう」と蒼は言った。「どこにどんな影響が出ているかを記録しておけば、後でガーレン局長に伝えられます。管理局が対処するための情報になります」
「それは」とクルトが言った。「依頼を受けてやる仕事ではないですが」
「俺がやりたいのでやります」と蒼は言った。
────────────────────────
出発前に、ギルドの受付の女性に薬草採取の依頼を納品した。色の変わった植物についても伝えた。女性は最初不思議そうな顔をしたが、魔脈の乱れが原因かもしれないと説明すると、メモを取り始めた。
「王都の管理局に報告した方がいいですか」
「した方がいいと思います。情報は多い方が対処しやすいので」
「わかりました、ありがとうございます」
街を出るとき、リーナが馬を並べて言った。「いつの間にそういうことをするようになったの」
「荷物運びの仕事で、道中に何があるかを記録する習慣がついていたので。同じことです」
「荷物運びの感覚で世界の問題を解決していくんですね、あなたは」
「大げさなことより、小さなことの積み重ねの方が信頼できるので」
リーナが少し笑った。エムが前を向いたまま言った。「そういうところが、オルティスに似ている」
「またそれ言いますか」
「似てるから仕方ないです」




