第五十話「マルクスの言葉」
尋問室というより、普通の部屋だった。
テーブルを挟んでマルクスが座っていて、向かいにガーレン局長とライゼル、その横に蒼が座った。マルクスは拘束されていたが、表情は穏やかだった。戦闘の夜から一日たって、感情が落ち着いたように見えた。
「話してください」とガーレンが言った。「最初から」
マルクスが少し間を置いてから、話し始めた。
彼の出身は王都から遠い北の街で、子供の頃に街が魔物の被害を受けたと言った。その原因は魔脈の乱れで、当時の管理局が早期に対応していれば防げたはずだった。しかし管理局は動かなかった。後になって、その魔脈の乱れが調律炉の影響によるものだったと知った。
「炉の問題を放置していたのは管理局です」とマルクスは言った。「そのツケが地方に回ってきた。私の故郷のような場所に」
「だから炉を解放することで、管理局の権力構造を壊そうとしたということですか」とガーレンが聞いた。
「そうです。ただし」マルクスが少し間を置いた。「途中から、手段が目的になっていたかもしれない」
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ライゼルがマルクスを見た。「私に嘘をついていたことについては?」
「嘘とは思っていませんでした」とマルクスは答えた。「炉の解放で歴史を取り戻すことはできた。ただ、代償については言わなかった。それは嘘ではないですが、正直でもなかった」
「なぜ言わなかったんですか」
「言えば、殿下は動かなかったからです」マルクスが少し目を伏せた。「目的のために手段を選ばなくなっていたのは、本当のことです」
部屋に沈黙が落ちた。蒼はマルクスを見ていた。この男の中に、故郷を失った子供の記憶が今もあるのだとわかった。それが七年間かけて、間違った形で大きくなった。
「マルクスさん」と蒼は言った。
マルクスが蒼を見た。
「炉の問題は、今回で全部終わったわけではないです。百年ごとに調整が必要で、その間に何が起きるかはまだわからない。あなたが怒っていた問題、管理局が地方の被害に対応しなかったという問題は、まだあります」
「知っています」
「その問題を解決するために、別の方法があります。消された記録を復元して、炉の仕組みを正しく広めて、管理局が適切に機能するよう変えていく方法が。それは今回で終わりではなくて、これからの話です」
マルクスがしばらく蒼を見た。
「転生者というのは」とマルクスはやがて言った。「みんなそういう話し方をするものですか」
「わかりません。他の転生者に会ったことがないので」




