第五話「王都からの男」
街に戻ると、ギルドの前に人だかりができていた。
その中心に、蒼が見たことのない男が立っていた。三十代半ばほどで、旅装だが上等な素材でできている。腰に剣を帯びているが、それより目を引いたのが胸元の紋章だった。王家のものではないが、それに近い公的な機関を示す印章だと蒼は直感した。
男は蒼たちが戻ってきたのを見ると、副長と短く言葉を交わしてからこちらに歩いてきた。リーナを見て頷き、それから蒼に視線を止めた。一秒、二秒と目が合ったまま、男は静かに言った。
「転生者か?」
「そうです。天宮蒼といいます」
「クルト・アーヴィンス。王都の冒険者管理局から来ました」男が続けた。「今回の魔物の件、実は一週間前に予兆の報告を受けていました。動くのが遅れたことは謝罪します」
「予兆があって対処が遅れたなら、謝罪より先に説明が必要じゃないですか」と蒼は言った。
クルトが少し目を細めた。責めているのではなく、何かを確かめるような目だった。「正直な人だ」と彼は言った。
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ギルドの一室を借りて、説明を受けた。リーナと、生き残った冒険者二名、そして蒼が同席した。
今回のSランク魔物、イバルトは百年に一度ほどの周期で記録される個体で、これまでは山岳地帯の奥地にのみ出現していた。それが街の近くまで下りてきたのは、この地域の魔脈に乱れが生じている可能性を示しているとクルトは言った。
「魔脈の乱れの原因は?」と蒼が聞いた。
「調査中です」
「つまりわからない」
「そうなります」とクルトが静かに認めた。
しばらく説明が続いたあと、クルトが蒼を見た。
「転生前はどんな仕事をしていましたか」
「高校生でした。もうすぐ大学生になるはずだったんですが、理系志望で物理と数学が得意でした」
クルトが小さく頷いた。何かを確認したような動作だった。リーナが横から口を挟んだ。「回りくどいのはやめて。この人に何の用があるの」
「率直に言います」とクルトは蒼に向き直った。「あなたのスキル《限界突破》について、管理局が興味を持っています。詳しく教えてもらえますか」
蒼は転生直後からの経過を話した。全部Fのステータスが大きなダメージを受けるたびに少しずつ上昇していること、上昇幅は小さいが確かに変化していること。話し終えるとクルトは少し考えてから言った。
「蒼さん、王都に来る気はありますか」
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その夜、蒼は宿の窓から星を見ながら考えた。
クルトは最初から自分のことを知っていたように見えた。転生者かと聞いたとき、驚いた様子がなかった。管理局が転生者の出現を事前に把握していたか、あるいは何らかの方法で予測していたかのどちらかだ。だとすれば、王都への誘いが善意だけではない可能性がある。
ただ、情報の量という点では、この街に留まるより王都の方が圧倒的に多いはずだ。利用されるとわかっていても、情報が得られるなら行く価値はある。重要なのは、利用されていることを自覚しながら動けるかどうかだと蒼は思った。それならまだ、こちらに手札がある。
翌朝、蒼はクルトに答えを伝えた。
「行きます。ただし条件があります」
「聞きましょう」
「リーナさんも一緒に来てほしいです」
クルトが少し驚いた顔をした。リーナが横から「なんで私が条件なの」と言った。
「一人で知らない場所に行くのは危険です。あなたは強くて信頼できる。それだけです」とシンプルに答えると、リーナはしばらく黙ってからため息をついた。
「報酬は?」とクルトに聞いた。
「相応のものを用意します」
「わかった」とリーナは短く言って立ち上がった。「出発はいつ?」
蒼はその横顔を見ながら、小さく息を吐いた。頼れる人がいるというのは、こんなにも心強いものなのかと、初めて実感した。




