第四十八話「王城の老侍女」
王城に入ったのは翌日の午後だった。
ライゼルが手配してくれた。殿下が軍を引いたことで、管理局と王家の関係が一時的に改善していたおかげで、入城が比較的スムーズに進んだ。蒼とリーナ、そしてカインが同行した。
王城の奥の区画は、外の喧騒と切り離された静かな場所だった。石廊下が続いて、高い天井から差し込む光が床に縞模様を作っている。歩くたびに靴音が響いて、蒼は無意識に足元を気にした。
現国王の寝室の近くに、小さな部屋があった。そこに老侍女はいた。
七十代か八十代か、正確にはわからない。白髪を丁寧に結い上げて、背筋が真っ直ぐだった。蒼たちが入ると、顔を上げた。その目が鋭く、何かを見透かすような光を持っていた。
「転生者が来たんですね」と老侍女は言った。挨拶よりも先に。
「はい」と蒼は答えた。
「炉の件は聞きました。うまくやりましたね」
「あなたは知っていたんですか、炉のことを」
「五十年ここにいて、知らないことはほとんどない」老侍女が静かに笑った。「ラーデン、という名前に心当たりがあって来たんでしょう」
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老侍女の名はヨルダという。ラーデンは名字ではなく、彼女の一族が代々継いできた称号のようなものだと説明した。
「四つの一族の最後の一つ、ということですか」と蒼は聞いた。
「そうです。ヴァルクが炉の接続を担い、フォーセルが炉の守護を担い、アーヴィンスが炉の記録を担い、ラーデンが炉の観測を担った。それが本来の役割分担でした」
「観測というのは」
「炉の状態と、封じられた存在の状態を、常に把握すること。異常が起きたとき、最初に気づく役割です」
「それをずっとやっていたんですか、五十年間」
「私だけでなく、代々続いています。百年前の改修以来、観測が一番重要になった。改修によって炉が正常ではなくなったので、いつ問題が起きるか、常に見ていなければならなかった」
リーナが口を開いた。「私の名前、フォーセルというのが石板に刻まれていました。それについて何か知っていますか」
ヨルダがリーナを見た。「知っています。ただ、今のあなたに話しても、信じられるかどうか」
「話してください」とリーナが言った。迷いのない声だった。
「あなたの祖先は、炉の守護者として代々剣を持ち続けた一族です。その力は血の中に残っています。あなたが炉に近いところにいたのは、偶然ではない」
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帰り道、リーナはずっと静かだった。
廊下を歩きながら、蒼は横の彼女を見た。何か言おうとして、やめた。こういうときに言葉をかけることと、黙っていることのどちらが良いかを考えた。
城門を出たとき、リーナが言った。
「運命みたいな話は、あまり好きじゃないんですよね」
「そうですか」
「生まれた家とか、血のつながりとか、そういうもので全部が決まっているような感じが、どうも苦手で」
「それはわかります」と蒼は言った。
「でも」リーナが少し間を置いた。「炉を守りに行きたいと思ったのは、本当のことだったので。理由があってもなくても、自分がそう思ったのは事実だから、まあ、いいかと思います」
「それで十分だと思います」
リーナが前を向いた。「あなたは運命とか信じる方ですか」
「必要だったから届いた、と炉に言われました。それは運命に近いかもしれないですが」蒼は少し考えた。「それでも、最後に動いたのは自分の意志なので、運命だけとは思っていないです」




