第四十六話「東市場の地下」
翌朝、目を覚ましたとき、《知識蓄積》が反応していた。
何か新しい情報を吸収しているわけではなかった。ただ、特定の方向に何かがある、という感覚だった。炉と対話したあとから、このスキルの感度が上がっているような気がしていた。
方向は東だった。
朝食を取りながら、蒼はその感覚を地図と照らし合わせた。炉の干渉源の候補の一つだった、東市場の地下区画の方向だ。建国神殿の地下が干渉源だったとわかってから、他の二か所については後回しにしていた。
クルトに話すと、彼は少し考えてから言った。「東市場の地下区画には、昔の旧市街の遺構が残っています。今は使われていないはずですが、立ち入り禁止になっています」
「立ち入り禁止の理由は」
「崩落の危険があるという名目ですが」クルトが少し間を置いた。「実際に崩落の報告は過去にないので、別の理由かもしれません」
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昼前に、リーナとエムと三人で東市場に向かった。カインはライゼル殿下の対応で管理局に残っていた。アリエルも殿下と話し合いを続けていた。
東市場は食料と雑貨が並ぶ活気のある場所で、蒼が荷物運びの仕事で何度も来ていたところだった。その端に、木の板で塞がれた古い階段があった。立ち入り禁止の札が下がっていたが、錠はかかっていなかった。
「開けますか」とリーナが言った。
「開けます」
板を外して階段を降りた。地下は暗かったが、魔石の灯りで見ると、建国神殿の地下区画とは全然違う場所だった。石の壁に古い浮彫があって、床には模様が刻まれている。遺跡だった。
《知識蓄積》が反応した。浮彫の文字を読もうとすると、意味が流れ込んできた。
「ここは」と蒼は呟いた。「建国以前の遺構です。王国ができる前から、ここに何かがあった」
「何が書いてあるんですか」とエムが聞いた。
「建国以前の人々が、炉の設計者について書き残した記録です。設計者は一人ではなかった。複数の人物が協力して炉を作ったと書いてある」
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壁の奥まで進むと、小さな部屋があった。中心に台座があって、そこに石板が置かれていた。石板には文字が刻まれていて、《知識蓄積》が一気に反応した。
蒼はその文字を読んだ。
建国以前の時代に、この地に四つの一族がいた。それぞれが異なる力を持ち、それぞれが異なる役割を担っていた。炉を作ったのはその四つの一族が協力した結果だった。そして一族の名前が刻まれていた。
最初の名前を見て、蒼は手が止まった。
「エムさん」と蒼は言った。
「なに」
「ヴァルク、という名前が、ここにあります。四つの一族の一つです」
エムが蒼の横に来て石板を見た。彼女には文字が読めないが、蒼が読んだことは伝わった。
「他の三つは」
「ラーデン、フォーセル、アーヴィンス」
全員が静かになった。
「フォーセル」とリーナが聞いた。「それ、私の名字です」




