第四十三話「切り札の準備」
「時間は午前中だけだと言いましたが、今から何時間ありますか」と蒼はカインに聞いた。
「三時間あるかないかです」
「足りるかどうかわかりませんが、やります」と蒼は立ち上がった。「資料室を使わせてください」
資料室に駆け込んで、まず管理局が保管しているヴァルク村関係の断片的な資料を全部引き出した。改修記録の中に点在するヴァルク村への言及、オルティスの書簡、エムが持参していたヴァルク村の記録の一部。それに炉の地下で《知識蓄積》が蓄積した情報が加わる。
頭の中に、全部が入っていた。
蒼は紙に書き始めた。ヴァルク村の位置、人口、炉との関係、消された経緯、オルティスの活動、そして炉の本来の目的。ただの記録ではなく、古代史の研究者が見て興味を持てるように、順序立てて論文に近い形に整理した。
前の世界で、大学受験の小論文を書くときに覚えた構成が、今になって役立った。証拠を先に示して、そこから結論を導く形にすれば、否定しにくい。
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エムが途中から手伝いに来た。
「何をするつもりですか」とエムが聞いた。
「殿下は学者です。感情に訴えるより、証拠に訴えた方が動く可能性があります。ヴァルク村の記録を資料として整理して、マルクスがどれだけ殿下を誤った方向に利用していたかを示したい」
エムが手元の資料を見て、少し考えてから一枚の紙を出した。「これを使ってください。ヴァルク村の長老が書き残した記録の写しです。オリジナルは私が持っています。古代語と現代語が混在していますが」
「読めます」
「……そうですね、あなたは読めますね」エムが微かに笑った。
二人で一時間かけて資料を作った。完成したものは薄い冊子になった。完璧ではない。でも、学者が見れば価値がわかる内容にはなっていた。
蒼は出来上がった冊子を見て、一度深呼吸した。これが通じるかどうかはわからない。ただ、何も持たずに行くよりは確かにいい。
「行きましょう」と蒼は言った。
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アリエルとカインと蒼の三人で、南の城門に向かった。リーナが「行く」と言ったが、今回は蒼が頼んだ。
「戦いの場面になったら呼びます。でも今回は武器じゃなくて言葉で行くので、剣を持った人間が多いと交渉の雰囲気にならない」
リーナが不満そうな顔をしたが、最終的に「わかった。でも一時間以内に戻ってこなかったら行く」と言った。
「それで構いません」
南の城門を出ると、街道の先に馬車の列が見えた。第一王子の一行が、まだ城門の外で止まっていた。前方の交渉が続いているらしく、完全に進んでいなかった。
カインが前に出て、先頭の騎士に名前を告げた。騎士が馬車の中に確認を取りに行った。しばらくして、扉が開いた。




