第四十二話「王子の動機」
「第一王子は、最初から王位を望んでいなかった」
カインの言葉が会議室に落ちると、しばらく誰も何も言わなかった。
「どういうことですか」と蒼は聞いた。
「第一王子、ライゼル殿下は学者気質の人物です。幼い頃から魔法理論と古代史に傾倒していて、政治や軍事にはほとんど関心を持っていなかった」カインが静かに続けた。「しかし七年前、側近にマルクスが就いてから変わり始めた。派閥を大きくして、王位継承に積極的になっていった」
「マルクスが動かしていたということですか」
「そう見ています。ただ、ライゼル殿下が全くの操り人形かというと、そうとも言えない。殿下には殿下の目的があって、それがマルクスの計画と一致していた部分がある」
「その目的とは」
カインが少し間を置いた。「古代史の復元です。消された歴史を明らかにすること。殿下は学者として、そのことに長年取り組んでいた。マルクスはそこに乗じた。炉の解放で得られる力を使えば、消された歴史の記録を全て取り戻せると、殿下に信じさせた」
蒼はその言葉を聞いて、少し考えた。ヴァルク村の歴史を取り戻したかったヴァーン老人と、似た動機だった。ただし手段が全然違う。
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「第一王子殿下に、炉が止まったことを伝えれば」と蒼は言った。「マルクスの計画が失敗したことを知れば、動く理由がなくなるかもしれない」
「可能性はあります」とカインが言った。「ただし殿下がマルクスの言葉をどこまで信じているかによります。七年間、側近として傍にいた人間の言葉と、昨日出会ったばかりの転生者の言葉、どちらを信じるかは殿下次第です」
「だから、アリエルさんが行く意味がある」
「殿下にとってアリエルは妹です。信頼関係がある。そしてアリエルが炉の素養を持つことを、殿下は知っています。アリエルが炉の状態を直接伝えれば、言葉の重みが違う」
アリエルが手を膝の上で握った。怖いのかもしれないと蒼は思った。異母兄に会いに行くことが、どういう感情を呼ぶのかは、蒼には完全にはわからない。ただアリエルの目は、揺れながらも前を向いていた。
「一つ聞いてもいいですか」と蒼はアリエルに言った。
「なに」
「殿下のことは、好きですか」
アリエルが少し驚いた顔をして、それから小さく笑った。「好きですよ。たまにしか会えなかったけど、会うといつも古代の話をしてくれた。難しくてよくわからなかったけど、楽しそうに話す顔が好きだった」
「なら伝わります」と蒼は言った。「好きな人に、本当のことを伝えようとする気持ちは、言葉より先に届くので」




