第三十八話「本気の剣」
リーナの顔に、肩から腕にかけて、血が滲んでいた。
カインも額に切り傷があって、右腕をかばうような動きをしていた。二人とも満身創痍だったが、目が死んでいなかった。リーナが階段を降りながら地下の状況を見渡した。エムとアリエルが炉に触れていること、蒼が炉に両手を当てていること、マルクスが魔力を溜めていること。全部を一秒で把握して、剣を抜いた。
「蒼」とリーナが言った。
「リーナさん」
「続けて。私がやる」
それだけだった。
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マルクスがリーナを見た。「まだ動けるのですか」
「あなたが思うより、しぶといんです」とリーナが言った。
マルクスの魔力の向きが、蒼からリーナに変わった。圧縮された魔力が解き放たれた瞬間、リーナが横に跳んだ。
《流星連剣》。
炎が走るような軌跡を残しながら、リーナの剣がマルクスの結界に連続で叩きつけられた。一撃一撃が重く、地下の空間に轟音が響いた。マルクスの結界が揺れた。揺れるだけで崩れない。それでもリーナは止まらなかった。
「カイン」とリーナが叫んだ。
「《烈刃・極光》」
カインが右腕をかばいながらも左手に魔力を込めて、剣に走らせた。縦に一閃した剣光が、リーナの剣と角度を変えてマルクスの結界に当たった。上下から同時に来た二撃に、結界が初めて大きくたわんだ。
マルクスが後退した。
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蒼は炉に集中しながら、その戦いを背中越しに感じていた。
自分の代わりに戦ってくれている。傷だらけで、それでも戦ってくれている。俺を守るために。
感謝を言葉にする余裕がなかった。ただ、その分を炉に込めた。守りたいという気持ちが、また一段と大きくなった。
炉が応答した。
「外部からの干渉が弱まっている」と炉は言った。「ヴァーンが頑張っている」
「もう少しで終わりますか」
「あと少しだ。ただし、お前に一つだけ話しておかなければならないことがある」
「後でもいいですか」
「今でなければならない。炉の封印が維持される代わりに、次の調整まで百年かかる。その間、この炉は誰も触れてはならない」
「わかりました」
「お前のスキルについて、最後に伝える。《知識蓄積》は転生者に与えられたものではない。この炉が、適切な人間が現れるのを待ちながら、世界に流していたものだ。お前が選ばれたのは、お前が持ってきたから選ばれたのではなく」
炉の声が少し揺れた。
「必要だったから、届いたんだ」




