第三十五話「前夜の緊急」
翌日の夜を本番にすると決めていた。
残り二日のうちの、最初の夜。ヴァーンが魔法陣を維持して時間を稼ぎ、エムとアリエルが炉の直接介入を担い、リーナとカインが地上で追手を抑える。そして蒼が炉に語りかけて、封印の維持を伝える。
全員が役割を確認して、その夜は休んだ。
翌朝、準備の最終確認をしていたとき、クルトが管理局の廊下を走ってきた。
「マルクスが動きました。予定より一日早い」
「理由は」と蒼が聞いた。
「ヴァーン老人の動向を把握したんだと思います。協力関係に気づいた可能性がある」
予定が崩れた。蒼は頭を切り替えた。今夜ではなく、今日のうちに動かなければならない。
────────────────────────
緊急の集合をかけた。
クルト、リーナ、エム、カイン、アリエル、ガーレン局長。全員が管理局の会議室に集まった。
「予定を前倒しにします」と蒼は言った。「今日の夕方、暗くなり始めたところで動きます」
「準備は整っていますか」とガーレンが言った。
「整ってはいないです。でも待つと間に合わない可能性がある。整っていない状態で動く方が、整っていても遅すぎるより良い」
「炉との対話は成功しますか」とエムが聞いた。
「やってみないとわかりません」と蒼は正直に答えた。「ただ、炉は応答してきた。話せる状態にある。それだけは確かです」
アリエルが手を上げた。「私は大丈夫です。昨日の夜から炉の声が大きくなっています。繋がりやすい状態だと思う」
カインが妹を見た。何も言わなかった。言えない気持ちが、顔に出ていた。
「役割を確認します」と蒼は言って、全員を見渡した。「リーナさんとカインさんは炉の地下への入口を守ってください。マルクスと追手が来たとき、できるだけ時間を稼いでほしい。エムさんとアリエルさんは炉の本体に直接触れて、逆転の進行を抑制してください。俺は炉に語りかけます」
「ヴァーン老人は?」とリーナが聞いた。
「建国神殿の地下区画で、魔法陣の維持を続けてもらいます。干渉源が完全に断たれる前に炉が暴走しないよう、つなぎとめる役割です」
「クルトさんと私は?」とガーレンが聞いた。
「地上の情報収集と、万が一に備えた連絡役をお願いします」
全員が頷いた。蒼は深く息を吸った。
始まる。




