第三十四話「七代目の男」
翌日の午後、カインが別の入口を案内してくれた。
神殿の北側にある古い水路を使う経路で、狭かったが追手に見つかりにくかった。リーナが「こんな道を知ってるのか」と言うとカインが「調べておいた」と短く答えた。
地下区画への石扉の前まで来ると、前回と違って扉が少し開いていた。中から微かな光が漏れていた。
「目を覚ましている」とリーナが小声で言った。
「話せます」と蒼は答えた。
扉を開けて中に入ると、洞窟の中心で老人が立っていた。椅子から立ち上がっていて、こちらを見ていた。蒼が来ることを知っていたような佇まいだった。
「来たか」と老人は言った。
声は低く、ゆっくりとしていた。七十代の老人で、白い顎ひげを持ち、目だけが異様に鋭い。これがオルティス・ヴァーンの七代目だった。
「話したかったです」と蒼は言った。
「私もだ。マルクスが使者を出したと聞いた。あの男は計画を急ぎすぎている」
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老人は七代目のオルティスとして、ヴァーンという本名を持っていた。彼が語り始めた内容は、エムの説明と一致しながら、別の角度を持っていた。
「私は四十年間、この装置を維持してきた。その間、解放を完成させるべきかどうかを何度も考えた」とヴァーンは言った。「先代から使命を引き継いだとき、それが村の悲劇への復讐だと教えられた。封じられた存在を解放することで、消された歴史を取り戻せると」
「今もそう信じていますか」と蒼は聞いた。
「信じていたい。でも」老人が少し間を置いた。「炉が話しかけてきた。お前と同じ日に、私にも」
「炉が何を言いましたか」
「復讐と解放は違うと言った。力を手にすることと、失った歴史を取り戻すことは、同じではないと」
蒼は老人の目を見た。四十年間この場所を守ってきた目が、疲れていた。
「今、あなたはどうしたいですか」と蒼は聞いた。
「止めたい。ただ」ヴァーンが手を見た。「マルクスが来れば、私には止められない。あの男は私より強い」
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「協力してもらえますか」と蒼は言った。
「どんな形で」
「この魔法陣を、正常化の儀式が始まるまで維持し続けてほしいです。マルクスが来たとき、少しだけ時間を稼いでほしい。稼いでいる間に、俺たちが炉の側から止めます」
ヴァーンがしばらく蒼を見た。転生者という存在をどう思っているのか、老人の目からは読めなかった。やがて言った。
「お前はいくつだ」
「十七です」
「十七の子どもが、こんなところまで来て」ヴァーンが小さく笑った。穏やかな笑いだった。「初代のオルティスも、若かった。二十代だったと記録にある」
「そんなに似ていますか」
「初代は怖がりで諦めが悪い人物だったと記録にある。似ているかもしれないな」
エムが以前言ったことと同じだった。蒼は少し笑った。
「協力します」とヴァーンは言った。「ただし」老人の目が鋭くなった。「約束してくれ。この計画が終わったあと、ヴァルク村の記録を復元することを」
「約束します」と蒼は即座に答えた。




