第三十三話「アリエルの目」
アリエルが来たのは真夜中近くだった。
カインに連れられて管理局の裏口から入ってきた彼女は、蒼が想像していた人物とは違った。第三王女という肩書と、ずっと隔離されてきたという経緯から、もっと消えそうな人物を想像していた。
実際のアリエルは、十七歳らしい細さを持ちながら、まっすぐな目をしていた。入ってくるなりカインを見て、次に部屋にいる全員を一人ずつ確認して、最後に蒼で視線が止まった。
「炉を直しに来たの?」と彼女は言った。開口一番で。
「はい」と蒼は答えた。
「兄から聞いた。あなたが炉と話せるって」
「今のところ少しだけ話せます」
「私も、ずっと炉の声みたいなものが聞こえていた」アリエルが言った。「ここ最近は特に大きくなってきた。何かが急いでいる感じがして、怖かった」
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エムがアリエルに近づいた。二人が向き合うと、エムがアリエルの手を取って少し目を閉じた。数秒して目を開けて、蒼を見た。
「本物です。ヴァルクの素養と構造が近い。炉に直接働きかけることができます」
「わかりました」と蒼は言って、アリエルに向き直った。「状況を説明させてください。全部」
「聞かせて」とアリエルは言った。迷いのない声だった。
蒼は炉の構造から始めて、百年前の改修、ヴァルク村のこと、オルティスのこと、マルクスの動き、炉が話しかけてきたこと、全部を説明した。アリエルは途中で一度も口を挟まずに聞いていて、全部終わると短く言った。
「やる」
カインが妹を見た。「アリエル」
「兄さん、私はずっとここにいた」アリエルが言った。「離宮に隔離されて、魔力を持て余して、何もできなかった。炉の声が大きくなるたびに怖くて、でも何もできないのがもっと怖かった。今、できることがあるなら、やりたい」
カインがしばらく妹を見てから、目を閉じた。何も言わなかった。それが了承だった。
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作戦の確認を始めた。
残り三日以内に実行しなければならない。炉の対話に必要な人員は確定した。蒼が炉に語りかけて封印の維持を指示する。エムとアリエルが炉への直接介入を担う。その間、マルクスや追手が来た場合の対処がリーナとカインの役割だ。
「干渉源は同時に断つ必要があります」と蒼は言った。「炉に語りかけながら外部からの干渉が続いていると、炉が応答できない可能性がある」
「建国神殿の地下区画の魔法陣を破壊する必要がある」とエムが言った。「ただし、あの老人がいる」
「七代目のオルティスに会いたいです」と蒼は言った。「直接話せれば、邪魔はしないかもしれない。あの人が本当に初代の意志を継いでいるなら、止めようとしているはずです」
「もし反対側だったら?」とリーナが言った。
「その場合は別の方法を考えます。でも、まず試したい」
部屋に沈黙が落ちた。全員が少しずつ考えを整理していた。
「俺が会いに行きます」と蒼は言った。「一人で」
「だめ」とリーナが即座に言った。
「一人の方が話しやすい場合があります」
「だめだって言ってる」
蒼はリーナを見た。彼女の目が珍しく固かった。こういう顔をしているときのリーナには、言い返すより折れた方がいいと、最近学んでいた。
「では二人で行きます」
「それならいい」




