第二十八話「炉の声」
調律炉の地下への立ち入りを、ガーレン局長が正式に許可した。
クルトが同行するという条件がついたが、蒼は構わなかった。毎日午前中の三時間を地下で過ごして、壁面の魔法陣と炉本体の表面を丁寧に読み込んでいった。《知識蓄積》は毎回反応して、蒼の中に情報が積み重なっていく感覚があった。
三日目に、壁面の魔法陣の全体構造が見えてきた。外周から中心に向かう流れと、中心から外周に向かう流れが同時に存在していて、それが正常な状態での魔脈安定機能を実現していた。現在は逆転しているので、その流れが全部反転している。
四日目に、炉本体の表面に刻まれた古い言語の意味が、前より深くわかるようになってきた。単語の意味だけでなく、文章の構造が見えてきた。
五日目の朝、地下に降りて炉に近づいたとき、何かが変わった。
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炉の表面が、光り始めた。
いつも薄く光っているのとは違う。特定の文字だけが、強く明滅していた。蒼は立ち止まって、その文字を見た。《知識蓄積》が強く反応した。ただ情報を蓄積するだけでなく、意味が直接流れ込んでくる感覚があった。
そして頭の中に、声のようなものが届いた。
声とは違う。言語とも違う。意味が直接、形を持って届くような感覚だ。
届いた内容は短かった。
「外から来た者よ。お前は何を望む」
クルトが「どうしたんですか」と後ろから言った。蒼が動かなくなったのに気づいたらしい。
「炉が話しかけてきています」と蒼は静かに言った。
「今すか」
「今です」
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蒼は炉に向かって、声ではなく、意識の中で答えた。
「炉の逆転を止めたい。封印を維持したい」
しばらく間があった。炉の光が揺れた。
「お前には資格がない。ヴァルクの血を引かない者に、封印は扱えない」
「《知識蓄積》を持っています」
「そのスキルの由来を、お前は知らない」
「知りたいです」
また間があった。今度は長かった。炉の光が一度強くなって、それから静かになった。
「お前に話すべきことがある。ただし、今ではない。逆転が進むほど、私の声は届きにくくなる。七日後に、もう一度来い」
「七日後に来ます」
「一つだけ言っておく。このスキルをお前に与えた存在は、お前が思っているものとは違う」
そこで炉の光が消えた。《知識蓄積》の反応も静まった。
蒼はしばらく炉の前に立ったまま、今届いた言葉を整理した。与えた存在が思っているものとは違う。転生させた存在のことを言っているのか、それとも別の何かなのか。
「蒼さん」とクルトが近づいてきた。「大丈夫ですか」
「大丈夫です。ただ」蒼は炉を見た。「七日後に、もう一度ここに来る必要があります」




