第二十七話「スキルの真相」
翌朝、エムが管理局に来た。
蒼を資料室に呼んで、向かいに座ると、前置きなしに話し始めた。エムが感情を出さないタイプだということは、この数日でわかっていた。だから彼女が少し間を置いてから話し始めたとき、これは重要な話だと蒼はすぐに感じた。
「《知識蓄積》について、私が知っていることを話します」とエムは言った。
「お願いします」
「ヴァルク村の記録に、このスキルの記述があります。正式な名称ではなく、『炉と対話できる者の印』と呼ばれていました」
「対話、ですか」
「調律炉の設計者は、炉に言語を持たせました。ただの魔法陣ではなく、意思疎通ができる構造にした。その意図はわかっていませんが、炉と対話できる者だけが炉の機能を変更できるとされています」
蒼は頭の中で整理した。「つまり《知識蓄積》は、炉と話ができるスキルだということですか」
「そう理解しています。ただし対話ができるということは」エムが蒼を見た。「炉に解放を促すこともできるし、逆に封印を維持するよう指示することもできる、ということです」
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それは、蒼が今まで聞いた中で最も重要な情報だった。
炉の逆転を止めるために干渉源を断つという方法は、あくまで外から止めるやり方だ。干渉源を断っても、すでに進行している逆転が自動で戻るわけではないとエムは言っていた。しかし炉と対話して直接封印の維持を指示できるなら、内側から止めることができる。
「やったことはありますか」と蒼は聞いた。
「ありません。記録上、炉との対話に成功した人物は過去に二人しかいない。どちらも百年以上前の人物です」
「失敗するとどうなりますか」
「記録にある失敗例は、対話中に炉の魔力の反動を受けて、意識を失ったというものです。最悪の場合は」エムが少し間を置いた。「戻ってこられない」
「戻ってこられない、というのは」
「意識が炉の中に取り込まれるということです」
窓の外で鳥が鳴いた。朝の光が資料室に差し込んでいた。蒼はしばらくその光を見てから、エムを向いた。
「試す価値はあると思います」
「今すぐではないです」とエムが言った。「準備が必要です。炉と対話する前に、炉の構造を完全に理解してから臨まなければならない」
「どのくらい時間が必要ですか」
「あなたの《知識蓄積》の蓄積量次第です。毎日炉の地下に通って、魔法陣を読み込んでいけば、一週間ほどで準備ができると思います」
「残り十八日あります。一週間で準備して、残り十日で実行する」
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エムが少し不思議そうな顔をした。「怖くないんですか」
「怖いです」と蒼は正直に言った。「意識が戻ってこない可能性があるって聞いて、普通に怖かったです」
「なのに、試すと言う」
「怖くないからやるわけじゃないので」と蒼は言った。「怖いけどやる理由の方が、大きいので」
エムがしばらく蒼を見た。感情の読みにくい目が、珍しく何かを探すような動きをした。
「あなたと話していると」とエムが言った。「百年前の記録の中で読んだ、オルティスの日記を思い出します」
「オルティスはどんな人物でしたか」
「怖がりで、でも止まれない人だったようです」エムが少し微笑んだ。珍しい表情だった。「あなたに少し似ています」




