第二十六話「局長の告白」
管理局に戻ったのは深夜だった。
当直の職員が蒼たちを見て目を丸くしたが、クルトが来て事情を短く説明すると、ガーレン局長の執務室に通された。局長は深夜にもかかわらず、まるで起きて待っていたように机に向かっていた。
蒼が地下区画で見たものを報告すると、ガーレンは黙って聞いていた。魔法陣のこと、老人が座っていたこと、オルティスという名前のこと、マルクスが現れたこと。全部話し終えても、老局長は長い間何も言わなかった。
「局長」とクルトが言った。「何か知っていることがあるなら」
「ある」とガーレンが静かに言った。
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局長が話し始めた内容は、蒼が想定していたより深いところまで届いていた。
オルティス・ヴァーンという名前は、百年前だけでなく、その後も何度か管理局の記録に現れていた。それは一人の人間ではなく、特定の使命を持つ者が代々継いでいく名前だった。その使命とは、百年前の改修で炉に組み込まれた解放機構を完成させること。
「なぜ管理局がそれを把握していたんですか」と蒼は聞いた。
「把握していた者がいた、ということです。全員ではない。歴代の局長の一部が、その情報を引き継いできた」
「あなたも引き継いでいる」
「そうです」ガーレンが蒼を見た。「ただし、私は実行を止めようとしてきた側の人間です」
「ならなぜ、最初から全部話してくれなかったんですか」
「あなたがどちら側の人間か、最初はわからなかった。転生者を利用しようとする者たちが、転生者を送り込んでくる可能性もあった」
蒼は少し考えた。「今は信用してくれているということですか」
「あなたが地下に行って、魔法陣を破壊せずに戻ってきた。それが答えです」
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ガーレンが続けた話の中で、蒼が最も重要だと思ったのは一つだった。
炉の解放機構が完成するためには、最終的に炉の中心で特定の言語を読み上げる必要がある。その言語は調律炉の設計者だけが知っていた言語で、現在それを読めるのは二人しかいない。エム・ヴァルクと、《知識蓄積》を持つ転生者だ。
「マルクスが私を連れてこようとしたのはそれか」と蒼は言った。
「エムさんは隠れていた。あなたは表に出てきた。だから」とガーレンが言いかけた。
「だから狙われた、ということですね」
エムが静かに言った。「私は長い間、自分だけが読めると思っていました。あなたに《知識蓄積》がある理由が、まだわからない」
「転生のときに与えられたスキルです。理由は聞いていません」
「与えた存在が、何かを意図していた可能性があります」
その言葉が、蒼の頭に引っかかった。転生させた存在が意図を持っていたとすれば、それは何だ。ただ強くしたいためではなく、特定の問題を解決するための能力を持たせた可能性がある。
残り十八日。状況が、急速に複雑になっていた。




