第二十五話「夜の逃走」
洞窟の奥は思ったより広く、魔石の灯りを頼りに走りながら出口を探した。
床の魔法陣が途切れている場所があった。足を止めて見ると、岩盤に沿って細い通路が伸びていた。エムが先頭に立って進むと、五分ほどで上り坂になり、木の根が絡まった土の扉があった。
「地上です」とエムが言った。
扉を押し上げると、冷たい夜風と星空が見えた。出口は神殿の外壁より外側で、王都の東側の空き地に面していた。全員が地上に出て扉を閉めると、後ろで石扉が破られる音が遠く聞こえた。
「走ります」とカインが言った。
四人で夜の路地を走った。
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追手が来た。
路地の角を曲がったとき、前方に二人の男が立っていた。後方にも足音がある。挟まれた形だった。
蒼は路地の構造を瞬時に確認した。左側に低い塀がある。その向こうは民家の裏庭で、さらに先に別の路地がある。荷物運びの仕事でこのあたりを歩いていたことがあった。
「左の塀を越えてください」と蒼が言った。
「飛び越えられる?」とリーナが言いながら、もう塀に手をかけていた。
「越えた先の路地を真っ直ぐ行くと石橋があります。橋の下に土手があって、そこから市場の裏手に出られます」
全員が塀を越えた。蒼は最後に越えようとしたとき、後方の追手の一人が魔法を放った。
衝撃が背中に当たった。
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《限界突破》発動
速度:E− → E
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足が地面を蹴る感覚が変わった。さっきまでより速く動ける。蒼は塀を飛び越えて着地し、前を走る三人に追いついた。
石橋を渡り、市場の裏手に出て、商人たちが使う搬入路を抜けると、追手の声が遠くなった。全員で息を整えながら、路地の影に入った。
「大丈夫ですか」とカインが蒼の背中を見て言った。
「当たりましたが、動けます」
「スキルが発動したのか」とリーナが言った。
「発動しました。背中に当たったときに」
エムが蒼の背中を見て、それから少し考えるような顔をした。「《限界突破》は、ダメージを受けるたびに上限が書き換えられる。そういう理解で合っていますか」
「今のところそうみたいです」
「そのスキルは」とエムが静かに言った。「本来この世界に存在するはずのないスキルです」
追手の声がまた遠くなっていくのを確認しながら、蒼はその言葉を頭に入れた。後で聞く。今はまず、安全な場所に移動しなければならない。




