第二十四話「裏切り」
石扉を閉めて引き返し始めたとき、通路の先に灯りが見えた。
一つではなく、複数だ。ゆっくりとこちらに近づいてくる。カインが立ち止まって、灯りが近づくにつれて表情を固くした。
「マルクス」とカインが言った。
先頭に立っていた男は、四十代の軍人風の体格をしていた。建国教の神官服を着ているが、その下に鎧の輪郭が見えた。後ろに六人の男を連れている。
「カイン殿、ご苦労様です」とマルクスが言った。穏やかな声だったが、目が笑っていなかった。「内部への案内、助かりました」
カインの呼吸が浅くなった。「あなたが連絡を取ってきたのか」
「ええ。カイン殿が転生者を王都に連れてきたと知ったとき、使いを出しました。あなたが行動すれば、その転生者も動くと思って」蒼はマルクスを見た。「天宮蒼。あなたには来てもらう必要がある」
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来てもらう、という言葉の意味を蒼は一秒で理解した。逃げるか、戦うか、交渉するか。通路は細く、後ろには石扉がある。前後を塞がれれば逃げ場がない。
ただ、この状況で蒼にできることは一つだった。
「なぜ私が必要なんですか」と蒼は言った。
「あなたのスキルが必要です」マルクスが答えた。「《知識蓄積》は炉の言語を読める唯一のスキルです。炉の最終段階を完成させるには、あなたが必要」
「拒否したら?」
「アリエル王女を使います。ただし彼女を使う場合、炉の制御が不安定になる可能性がある。あなたが協力してくれれば、彼女を傷つける必要はない」
カインが動いた。剣を抜こうとした瞬間、マルクスの後ろの男たちが一斉に魔力を展開した。
「剣を抜かないでください、カイン殿。あなたにはこの場で死んでもらう必要はない」
カインが歯を食いしばって止まった。蒼はその瞬間に視野を広げた。六人。通路の幅は二人分。後ろの石扉まで三メートル。エムが隣にいる。
これは勝てない戦いだ。今は。
蒼はリーナを見た。リーナが蒼を見た。一瞬だけ目が合って、互いに同じことを考えているとわかった。
「エムさん、扉を開けられますか」と蒼が静かに言った。
「開けられますが」
「今すぐ開けて、中に戻ってください。カインさん、後退してください。リーナさん」
リーナがすでに剣を抜いていた。「わかってる」
マルクスが蒼の意図を察して前に踏み出した。「無駄です、その通路の先は」
リーナの剣が閃いた。
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《流星連剣》。
正式な名前があるわけではない。ただリーナが複数の標的に対して高速で連続斬撃を放つとき、剣の軌跡が夜空の流星のように見えることを、蒼は後に知ることになる。今この瞬間は、ただその速さに目を奪われた。
六人のうち四人が弾き飛ばされ、残り二人が後退した。マルクスだけが動じなかった。彼の体の周囲に展開した防御魔法が、リーナの剣を受け止めていた。
「Bランクでも、この結界は破れない」
「時間が稼げれば十分です」とリーナが言った。
その間にエムが扉を開けて、カインと蒼が滑り込んだ。リーナが最後に入って扉を閉めた。エムが封印を再起動させると、石扉の向こうで激しい音がした。
「どのくらい持ちますか」とカインが聞いた。
「五分くらいです」とエムが答えた。
「別の出口は?」と蒼が洞窟を見回して言った。
「あります」とエムが言った。「あの老人が使っているはずの入口が、奥のどこかにあるはずです」




