第二十二話「建国神殿の夜」
建国神殿に向かったのは、月のない夜だった。
カインが選んだ集合場所は王都の東側の路地で、蒼、リーナ、エムの三人が揃うと、カインは無言で歩き始めた。街灯の少ない裏道を進んで、神殿の外壁に沿って歩いていくと、石壁の一部に古い木扉があった。装飾もなく、知らなければ倉庫の入口と見分けがつかない。
「この先に地下へ続く通路があります」とカインが低い声で言った。「古い搬入路で、今は使われていない。ただし」彼が扉に手をかけながら続けた。「中に警戒の魔法陣が張られています。解除するのに少し時間がかかる」
「どのくらいかかりますか」と蒼が聞いた。
「普通は十分以上です」
「普通は、ということは別の方法がある?」
カインが少し驚いた顔をした。「気づいていましたか」
「聞いてみただけです」
「エムさんがいれば、早くなるかもしれないと思っていました。魔法陣の構造がヴァルク村の技術に近い形式なので」
エムが一歩前に出て扉に触れた。少し目を閉じて、数秒後に言った。「二分ください」
────────────────────────
エムの手が魔法陣の上を動くと、光の紋様が浮かび上がって、次々と消えていった。二分もかからなかった。扉が静かに開くと、冷たい空気と、湿った石の匂いが流れてきた。
松明をつけて一列になって進んだ。カインが先頭で、蒼が二番目、エムとリーナが続く。
通路は思ったより広く、大人二人が並んで歩ける幅があった。天井には水染みがあって、床は古い石畳で所々が割れている。壁面には等間隔に小さな魔法陣が彫り込まれていて、どれも薄く光を放っていた。
「この魔法陣は何のためのものですか」と蒼が聞いた。
「警戒と記録です」とカインが答えた。「誰が通ったかを記録するものです」
「今も機能していますか」
「機能しているなら、私たちが通ったことが記録される」
「それは問題になりますか」
「記録を見る者がどちらの立場かによります」
曖昧な答えだったが、今はそれ以上聞かなかった。
十分ほど歩くと、通路が下り坂になった。さらに進むと、扉があった。今度の扉は木ではなく石で、表面に複雑な魔法陣が刻まれていた。
「この先が地下区画です」とカインが言った。「開けたことはない」
全員が扉の前で立ち止まった。蒼はその魔法陣を見た。《知識蓄積》が反応する感覚があった。
────────────────────────
《知識蓄積》反応
既知パターンとの照合中……
調律炉の封印紋様と構造的類似を検出
────────────────────────
「この魔法陣、調律炉の地下で見たものと同じ構造です」と蒼は言った。「炉と繋がっています」
エムが蒼を見た。「《知識蓄積》ですか」
「そうです。最近よく反応するようになってきた」
「そのスキルは」とエムが少し考えてから言った。「普通の転生者には与えられない。どういう経緯で?」
「よくわかりません。転生のときに一つだけもらいました」
エムがまた何かを言いかけてやめた。後で話す、という目だった。今は扉の方が先だった。
エムと蒼の二人で魔法陣を分析して、開き方を割り出した。エムが特定の順番で紋様に触れていくと、石の扉が重い音を立てながら内側に開いた。
向こうから、冷たい風と、かすかな光が漏れてきた。




