第十八話「二十二日」
炉の逆転を止める方法をエムが語り始めたのは、お茶が冷めてしばらくしてからだった。
方法は二つある、と彼女は言った。
一つ目は、逆転の動力となっている外部からの干渉源を断つこと。炉が単独で動いているのではなく、何者かが意図的に干渉を加え続けているはずで、その干渉を止めれば炉は自然に安定する。ただし干渉源がどこにあるかを特定する必要がある。
二つ目は、炉そのものに直接介入して逆転の進行を抑制すること。これはヴァルク村の一族が持つ特殊な魔力素養がなければできない。エムはその素養を持っているが、一人では炉の規模に対応できないと言った。
「二つを同時にやる必要がありますか」と蒼が聞いた。
「できれば同時の方がいい。干渉源を断っても、すでに進行している逆転は自然には止まりません。炉への直接介入も同時に行わないと、干渉を断いた後も逆転が続きます」
「タイムリミットはいつですか」
エムが少し間を置いた。「逆転が完了するまで、おそらく二十二日」
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二十二日という数字は重かった。
蒼は食堂を出てから、王都の街を一人で歩いた。考えるとき、蒼は動く方が頭が整理できた。前の世界でも、試験前は部屋で静止しているより歩き回っている方が思考が進んだ。
問題を整理した。
干渉源の特定。炉への直接介入。この二つを二十二日以内に実行する必要がある。エムは炉への介入を担える。干渉源の特定は、魔脈の観測データと自分の分析力を使えばできるかもしれない。ただし、干渉源に辿り着いた先で何が待っているかはわからない。戦闘になる可能性がある。
今の自分のステータスを確認した。
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天宮蒼
体力:E− 筋力:E− 速度:E−
魔力:0 魔法適性:なし
スキル:《限界突破》《知識蓄積》
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地下に降りたとき《知識蓄積》というスキルが追加されていた。《限界突破》とは別のスキルで、どういう条件で発動したのか、まだよくわかっていない。ただ、古い言語を読めたのはこのスキルのおかげだと思った。
ステータスはまだ低い。ただ転生直後からは確かに上がっていた。二十二日、まだ時間はある。
思考を整理しながら歩いているうちに、気づくと王都の市場に出ていた。人が多く、食べ物の匂いがして、活気があった。この街の下に巨大な炉があって、二十二日後に何かが変わるかもしれないことを、ここにいる人たちは誰も知らない。
知らない人たちが、普通に生きている。
それが、蒼には思いのほか重く感じた。
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宿に戻ると、リーナが部屋の前に立っていた。
「どこ行ってたの」
「考えながら歩いてました」
「まとまった?」
「ある程度は」と蒼は答えて、部屋に入りながら言った。「二十二日で、干渉源を特定して、炉を止める。それが今やるべきことです」
「あなた一人ではできない」
「わかっています。エムさんに炉の介入を担ってもらう。干渉源の特定には管理局のデータが必要です。それと」蒼はリーナを見た。「干渉源に辿り着いたとき、たぶん戦いになります」
「それは私の仕事ね」とリーナが言った。迷いのない声だった。
「危険ですよ」
「知ってる」リーナが蒼を見た。「でも、あなた一人で全部抱えるよりはマシでしょ」
蒼は何も言えなかった。言葉より先に、胸の奥が温かくなった。
一人じゃない。それがこんなにも力になるということを、蒼は転生してから初めて、本当の意味で理解した。




