第十二話「城門の前で」
王都が見えてきたのは夕暮れ前だった。
街道の先に巨大な城壁がそびえていて、その上に王家の旗が翻っている。城壁の規模は蒼がこれまで見てきた街とは比べ物にならず、数キロ先からでもその圧倒的な大きさが伝わってきた。転生してから初めて、自分が本当に別の世界にいるのだと実感した。
城門に近づいたとき、馬車が止まった。
検問の列があった。そしてその脇に、見覚えのある人物が立っていた。カイン・アルノードだった。セルダで兵士を制した若い男で、今は兵士の装備ではなく旅装を着ている。彼は馬車を見つけると、まっすぐ近づいてきた。
クルトが御者台から降りた。カインと目が合って、互いに黙って頷いた。敵対する雰囲気はなく、かといって親しいわけでもない、微妙な均衡があった。
「転生者の方と少し話がしたい」とカインが言った。
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城門近くの広場の端で、カインと向き合った。クルトとリーナは少し離れた場所で待っていた。ロスタンはいつの間にか気配を消していた。
カインはしばらく蒼を見てから、静かに口を開いた。
「セルダで、あなたの話を聞きました。市場で情報を集めていたと」
「人づてに聞こえたんですか」
「私には私なりの情報網があります」カインが言った。「それより、一つだけ聞いていいですか。あなたは王都で、何をするつもりですか」
「まだわかりません。情報を集めて、状況を理解したい。それだけです」
「管理局のために動くつもりはないと?」
「クルトさんとは約束があるので、完全に無関係にはなれないと思います。ただ、誰かの道具になるつもりはないです」
カインが少し考えてから言った。「正直な人だ」
「よく言われます」
「……それは買い言葉ですか」とカインが小さく笑った。初めて見る、警戒の薄れた表情だった。
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カインが話してくれた内容は短かったが、重要だった。
王都の中で、調律炉の異常を知っている人間は少ない。知っていても、その深刻さを理解している人間はさらに少ない。第一王子派の中でも調律炉について把握しているのは一部の者だけで、カイン自身もごく最近知ったばかりだという。
「誰が調律炉を逆転させたんですか」と蒼は聞いた。
「まだわかっていない。ただ、これが自然に起きた現象ではないことは確かです」カインが蒼を見た。「だから私はあなたに話しかけた。外の目線から見える何かが、あるかもしれないと思って」
「外の目線というのは、転生者だからということですか」
「この世界の常識に縛られていない、という意味でそう言いました」
蒼は少し考えてから答えた。「まだわかることの方が少ないです。ただ、調律炉が逆転していること、魔脈が収束しつつあること、それを誰かが意図的にやっているとすれば、目的は膨大な魔力の一点集中のはずです。それを何のために使うのかが、まだわからない」
カインが蒼を見つめた。「それを自分で解き明かすつもりですか」
「解き明かさないと、巻き込まれるだけになるので」
「なるほど」カインが頷いて、背を向けた。「王都で困ったことがあれば、カイン・アルノードの名前を出してください。少しくらいは力になれます」
去っていくカインの背中を見ながら、蒼は今日一日で出会った人間の数を数えた。ロスタン、カイン、そしてクルト。全員が何かを持っていて、全員が何かを隠していた。この王都という場所は、思った以上に複雑な場所らしい。
城門をくぐったとき、夕日が城壁を赤く染めていた。




