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Episode 1 

1年ぶりのリクルートスーツ。

圧倒される会場。


こんなに転職希望者がいるわけ?


いくつものブースに分けられた、大手企業やIT企業の受付窓口。


「あなたが企業を面接」とかなんとか言いながら、今、私の頭から爪先までさらりと見定めましたよね、あなた。


『こんにちは!どうぞお掛け下さい。』


『はい、よろしくお願いします。』


『では、早速ですが、エントリーカードと履歴書を拝見させて頂きますね。』


担当者が若手なのは、圧が無くて助かる。


『えー、新卒で入社して半年でお勤め先が倒産なんて、そんな事あるんですねぇ。』


本当にそんな事あるんですね。私が1番驚いてます。


『ん? 教員免許と保育教諭の資格をお持ちですが、何故その道には進まれなかったのですか?』


『はい、世界を視野に入れた広いフィールドで、自分の能力を試したいと思い、違う分野を選択しました。』


いやいや、そんな事、1ミリも考えた事ないけどね。


『それは素晴らしい志ですね。是非、当社にもお力添えを頂きたいですね。』


『では、続いて・・・


なんだか頭の中が真っ白だ。


家賃払わないといけないし。


この歳で夜のデビューも痛いだろうし。


今日、頑張らないと。


『はい、では、結果はこちらに記載のアドレスにメールでお送りしますね。本日はありがとうございました。』


『あ、ありがとうございます。よろしくお願いします。』



 *  *  *  *  *  *  *  * 



『トリプルエスプレッソラテ ひとつお願いします。』


『はい、お受け取りはあちらでお願いします。ありがとうございました!』


平日は思いの外空いている。

窓際が空いてるなんてラッキー!


あれ?

窓際の端の席の人、さっきの会場にいたっけ。

背が高くて猫背な人。


『うー、染み渡る。』

空っぽの胃袋に熱くて苦い液体が流れ込む。


何の邪魔にもならない、心地良い音楽が流れる。

柔らかい談笑が、時折り音楽を遮る。


渡された企業説明の冊子から目を上げると、切なくなる位に碧い空が格子状に切り取られている。

『はぁ、いつの間にこんなに空が高くなったんだろ。』


そう言えば、さっきの猫背さんは、良いお仕事に巡り逢えたのかな?

さり気なく左に視線を移すけれど、彼の姿はもう無かった。


『いや、帰ったんかい。気づかなかったわ。』

あんなに存在感のあるフォルムで、気配が無いって凄い。

俯いて笑いながら、空のカップを手に立ち上がると、端の席に置き去りのファイルに目が留まる。


近寄って覗き込むと、顔写真が貼られた履歴書と冊子の入ったクリアファイルだった。


うわ! 最上級の個人情報!


まだその辺にいるかも。

クリアファイルを掴んで、店外に飛び出す。


ああ、神様! 右ですか? 左ですか?


『左じゃよ。』と、顎髭を三つ編みにした爺さんが言った様な気がしたので、左に向かって走った。


履き慣れないパンプスでよたよた走って行くと、人混みの中に頭ひとつ分飛び出た後頭部が見える。


見つけた!


『すみません。』『あー、すみませーん!』

振り返るのは違う人ばかり。


『久柳さーん!』

叫んで立ち止まると、ようやく彼が振り返った。


怪訝な顔で歩み寄り、肩で息をする私に

『すみません、誰でしたっけ?』

と、彼は尋ねた。


『あの、これ置き忘れだと思うんですけど・・。』


『あ、ごめんなさい。見るつもりはなかったんたけど、あの、名前とか、色々・・・。』


彼はハッと気付いたように、自分の両手を見つめると

『あ、あー、すみません。そうですよね、見ますよね、そりゃ。はははっ。』

そう呟く様に言って、至極、真面目な顔をした。


『さっき、企業説明会で見かけたんです。で、たまたま隣の隣の、また隣くらいでコーヒー飲んでて、帰ろうかなーって立ち上がったら、コレが目に入って。』


そう言いながら、まだ私の手元にあるクリアファイルを差し出した。


人の流れが、ふたりを避けて左右に流れて行く。


左手でクリアファイルの端を摘んで、

『あの、バイト、しませんか?』

と、彼が言った。


読んで頂きありがとうございます。

まだまだ続きます。

よろしければ、へこたれないように、小さく応援して下さい。

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