初来店 ~マヌーサ~
-カランコロン-
軽いベルの音と共に
「いらっしゃーい…」
と少し気怠そうな、気の抜けた声が姿の見えないカウンター越しに聞こえた。
「1人なんですけど、いいですか?」
僕が問う
「もっちろん、大歓迎だよ。好きなところに座って?」
応えながら伸びをするようにゆっくりと立ち上がった男は僕を見るや否や目を丸くした。
軽いパーマのかかった焦げ茶色の髪に
綺麗な目鼻立ち
首や指にはいくつかのシルバーアクセサリー。
この街にはよくいる夜の男そのものを表した風貌だ。
「レモンサワーをお願いします。できればレモン多めで。」
止まっている彼には触れず僕は注文した。
暫くするとお店のカウンターは常連で埋まり始めた。
皆がカウンターの男とお酒を呑んだり、歌を歌ったり楽しい時間を過ごしていた。
「お兄さん歌わないの?」
隣のお客さんが声をかけてくれた。
「あ…僕こういうお店は初めてで…いいんですか、僕が歌っても。」
「もっちろん!歌おう!ほら、何か曲入れて」
会話を聞いていたのかカウンターの男が即座にデンモクを渡してくれた。
「じゃあ…」
恐る恐る曲を入れ自分の順番を待つ。
周りの楽しそうな会話や歌を聴きながらレモンサワーを呑んでいると自分の番が来た。
マイクを受け取り曲がテレビに映し出されたとき、
カウンターの男は驚いた顔をするも直ぐに俯いてどこか寂しそうな顔をした。
「…やっぱり。」
大きな音に遮られながらも僕は男に聞いた。
「やっぱり、貴方がカイリさんなんですね。」
男は俯いたまま軽く笑った。
その目はどこか悲しげで、でもどこか僕を見て嬉しそうな表情にも見えた。




