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4、走馬灯は死ぬ時だけじゃないみたいです...!

会場の外で立ち止まるだけで、胸がぎゅーっと締め付けられる。


人の声、歓声、足音、笑い声――全部が渦のように襲ってきて、頭の中でぐちゃぐちゃに絡み合う。


――怖い。帰りたい。怖い。帰りたい。


頭の中で常にこの二言が回っている。

心臓が跳ねて、手のひらが冷たく汗ばんでいる。


胸の奥で何かがざわつく。怒りみたいなものも混ざっている。


(なんで、こんな大変な仕事を僕に任せてくるんだ。

大人数だからって、それならマスターにもできるじゃないか!

何なら僕より得意なはずだろ!

僕がする必要なんてなかったんだ!

絶対に、めんどくさくて押し付けてきただけだ!!)


もう、ほんとにもう!!

ふんすっ!と息を一つ。

肩を怒らせ手を握り締める。


心の中でならなんだって言える。

――もしかしたらマスターには、言わなくても”伝わって”いるのかもしれない。


やり場のない怒りを隠すようにフードを深くかぶる。誰も僕を見ちゃいない。

普通の人と同じように、ちゃんと歩けてるもん。


右足、左足、右足、左足……。


「見てあの子、すっごく緊張してる!かわいぃ~!」

「手と足同時に出てるもんね!」


あれ...?


「ひかりちゃんに会えるんだもん、緊張しちゃうよねぇ~」


視線が...


「頑張れ、頑張れ......!」


視られてる?

..........!?

なんだかすごく”視られている”気がする.......っ


――視線、視線、視線視線視線視線


(やめろ、こっち見るな!)


鼓動が早まる。汗がにじんで呼吸ができない。


――苦しい、怖い、怖い......っ


視界が狭く霞んでくる。

意識が恐怖に飲まれていく――


「結導さん?」


「――!?」


.........はっ、.....はぁ、はぁ、

危ない、こんなところで暴走させるわけにはいかない。


(――爆発を止めに来たのに、僕が会場を爆発させちゃうところだった...)


「あの、結導さん?大丈夫ですか?」


「.................は、はい、。」


明るい笑顔に、僕の胸はますますぎゅっと締め付けられる。

震える手でフードを引っ張り、何とかそれだけ答えることができた。


――――――――――――――――


依頼人のマネージャーを名乗る女性に連れられ足早に会場内を移動する。


なんだかたくさん話しかけてきていたが、まともに答えられない僕を見て会話を諦めたらしい。

静かにただ目的の場所に向かって歩くこの時間のおかげで、少しだけ落ち着くことができた。


「この部屋です」


そう言って足を止めた彼女につられて僕も足を止め、ずっと床を見つめていた視線を前に向ける。


「ここに今回依頼させていただいた星乃ひかりと、警備の代表者がいます。

 開けてもいいですか?」


マスターから何か聞かされているのか、開ける前に丁寧な警告が入る。

心配そうにそういう彼女の優しさに答えられるほどの余裕を、残念ながら今の僕は持ち合わせていない。


何もないただの扉が、高く聳え立つ地獄の門のように感じられる。


(できることならまだ開けないで...っ、何なら一生開かないで...っ!!)


切実にそう願う僕の気持ちを知ってか知らずか、マネージャーの手がドアノブに伸びる。

それがやけにゆっくりに感じられ、走馬灯のようなものまで見えてきたような気がする。


(待って待って、ほんとに待って!!)


彼女の手がドアノブにたどり着き、細い指がそれにしっかりと絡みつく。


(ちょっと!まだいいって言ってないよ......っ!!)


手に力が加わりノブがゆっくり、しかし確かに回転していく――


(無理無理無理!!心の準備が...!!)


ガチャ――


無情にも扉が開け放たれ、中にいる二人が同時にこちらに目を向ける。


(――ヒュッ...)


息をのむ。

鼓動が早まり息が詰まる。


(ああだめだ、怖い、怖い怖い怖い)


もう無理だ、この場にいられない。

マスターに連絡して裏方に徹せるよう交渉してもらおう。

そうだそうしようそれがいい!


そうと決まれば撤退だ、と一歩後ろに踏み出したその時


「今回特異反応対策室から特別警備にあたってくださる、結導さんです。」


僕を紹介すると同時、さりげなく僕の前に立ち2人の視線を切ってくれる。

彼女の涼しげな瞳に高く通った鼻筋、何よりその凛とした横顔から、僕の目が引き付けられて離れない。


「ちょっと由奈ちゃん!見えないじゃん!」


紹介したいのかしたくないのかわかんないよ!!と騒ぐ星乃あかりを前に一歩も引かない彼女の背中が、すでに満身創痍だった僕にはひどく頼もしく見えるのだった。



(ついていきます、由奈さん...っ!)


瞳を輝かせこぶしを握り締める柴線の背中に、走馬灯の原因も彼女であったことは言わないでおこう、とそっと目を逸らす曖なのであった。

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