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3、フィルターの湯通しは必須です。


「分かったよ」


そう言った瞬間、彼女の顔がぱっと明るくなる。


「ほんと!? やった!」


両手を胸の前で組み、大げさに喜んで見せるひかり。

激しく振り回されるしっぽが見える。

……まぁ、俺が行くとは言ってないんだけど。


「メンバーに頼んでみるよ」


「え?」


そう言った途端、今度は大げさに肩を落とす。

尻尾と耳が力なく垂れさがるようだ。


フィルターにお湯を注ぐと、ふわっとコーヒーの香りが立ち上がる。


(うんうん、やっぱコーヒーの香りは癒されるなあ)


喜怒哀楽が激しいこの子に今までどれだけ振り回されてきたことか。

一人百面相を続けるひかりを横目に、そんなことはどうでもいいと手元に意識を戻す。


今俺はとても忙しいのだ。

構ってほしそうにこちらを見てきても知らん、そんな余裕はない。

少しお湯を注ぎ蒸らした後、細く一定に注ぎ数分待つを繰り返す。


「.....................のの字、のの字だ......」


血走らせた目で「のの字」と呟きながら同じ動きを繰り返す俺を、ひかりがひどく白けた目で見ていたことを、俺は知らない。


――――――――――――――――――



「俺は現場行かない」


「えーなんでだよぉ」


淹れたてのコーヒーをひかりに差し出しながら先ほどと同じ内容を伝える。

予想通りの反応。

きっと俺が行くことを期待してくれていたことには気づいている。


それでも、俺はもう現場に行くことはできない。

そうならないように、あの場を抜けてここに来たんだ。


(それに何より......)


「めんどくさい。」


「.........」


「人多いとこ苦手だもん。疲れるし」


じっとりとした視線が隠すことなく正面から突き刺さる。

そんな目で見つめてもだめです。俺も折れません。


負けじと見つめ返すこと数秒、先に折れたのはもちろん、ひかりのほうだ。


「はー、仕方ない。曖ちゃん忙しいもんね」


もちろん、何も予定はない。


「それで、助けてくれるお友達はだぁれ?」


わくわく!と楽しそうに聞いてくるのはいいけど、渾身の出来なんだね、そのコーヒー。

冷めないうちに飲んでくれないかなぁ。


「うちの古くからのメンバーだよ

 ちょっと人見知りだけど、こういう大勢相手には彼より頼もしい子はいない」


ちらちらとコーヒーに視線を向けながらそう返す。


実際、人の思惑に誰よりも敏感な子だ。

少数相手ならちょっと難しいかもしれないけど、大多数の中でなら一番輝く。

怪しい動きをすればすぐにバレるし、何かあっても守ってくれるだろう。


(仕事抜け出して遊びに行っても、いつもすぐ捕まるんだよなぁ...。)


「へー!凄い!

 曖ちゃんがそう言うってことは、とても強い子なんだね!」


にこにこと答えたひかりは、俺の視線に気づきコーヒーに手を伸ばし、そして静かに遠ざける。


あれ?なんでそっと遠ざけるのかな?

飲んでほしいって伝えたつもりなんだけど。


(目線で会話はまだ早かったのかなぁ)


あの子ならきっと、喜んで飲んでくれたのにと、話題の中心に上がっている人物を思い出す。


綺麗な青い髪を隠すようにいつも目深にフードを被り、人の視線を避けて俯いている彼の姿。


(きっと嫌がるんだろうなぁ)


顔中のすべての筋肉を使ってしわを寄せ、全力で拒絶を表してくるのが容易に想像できるようだ。


かわいい彼の姿を思い描き、微笑ましさについ顔がほころぶ。


「あ!!」

「!?どうしたの曖ちゃんびっくりしたよ!!」

「ひかり、ちょっとお願い聞いてもらってもいい?」

「いいけど、お願いってなあに?」


我ながら名案だと拳を握り引き寄せる。そろそろ頃合いだしついでに受けさせてしまえばいい。

素直にメンバーを褒めるひかりの言葉に気をよくした俺は、少しの不安を残しながらも、彼にこの依頼を任せることにしたのであった。


(まぁ、何とかなるでしょ)


完全に押し付けである。


「うわ!にっが!!うっす!!まっず!!!」

「え?美味しいよ?」


「......(こんの舌バカ......っ!!)」

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