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2、分量はきちんと測りましょう。

扉が勢いよく開いて、店の鈴が甲高く鳴った。


「あいちゃーん! 会いたかったよー!!」


……ああ、はいはい。

元気そうで何よりだよ


椅子に座ったまま、顔だけ向ける。

わざわざ迎えるほどの相手じゃないし、何より立つのが面倒くさい。


「久しぶり」


手をひらひら振ると、相手はそれだけで楽しそうに笑った。


「反応うっす! ほんと変わんないね!」


帽子をずらし、サングラスを額に押し上げる。

距離が近い。昔からずっとこうだ。


俺は立ち上がらずに、棚から豆を掴む。

量は適当。どうせ味なんてわからないでしょ。


「元気? ちゃんと寝てる?」


「曖ちゃんよりは元気だよー!」


相変わらずのにこにこ顔に思わずこちらもつられて綻ぶ。

向いの椅子を進めて彼女を座らせ、ミルに放り込んだ豆を不規則に回して挽いていく。


彼女は星乃ひかり。


3年前に彗星の如く現れたソロアイドル

今や男女問わず世界的な人気を誇っていると聞く。


(そういえばそろそろライブがあるんじゃなかったか?)


少し前にうちのメンバーがチケットが当たらない!と大いに嘆いていた気がする。


「それでねぇ曖ちゃん」


肘をカウンターにつき、身を乗り出す華奢な少女。

小さな顔に大きく輝くピンク色の瞳

同じく薄ピンクの髪は肩上で切りそろえられ、ゆるくパーマがかかっている。


にこにこで近づいてくる幼さの残るその顔には見覚えがあった。

そしてそれは、いつもいいものじゃなかったような......。


「爆破予告、来ちゃったんだよ!」


弾む声でそういう彼女に思わずため息を吐く。

楽しそうに何を言うのかと思えば、全くこの子は。

まるで新曲発表みたいなテンションだ。


俺は欠伸を噛み殺しながら聞く。


「今度ライブあるんだっけ?」


「そうなの!もしかして気にかけてくれていたの?」


「あはは、そうだね」


うん、たまたま聞いただけなんて言えない。

黙っておこう。


ガリ、ガリガリとミルを回す音

その間に、少しだけ感覚を広げてみる。


彼女の呼吸、視線、仕草。

一つ一つに集中し、彼女に心を通わせて。

共鳴し、溶け合うように......。


彼女の凪いた静かな感情。

楽しさと期待の底にある確かな信頼。


(......不安がないわけではないみたいだけど、)


こういうときのこの子は、いつもそうだ。


――ああ、流石だな。


全てを知ったうえで、まだ俺を頼ってくれるのか。


相手を信じ、委ねることの難しさを、俺は誰より理解しているつもりだ。

そして俺は知っている。

他人を信じると覚悟を決めた人間が、何よりも強く厄介であるということを。



―――視線を感じて意識を現実引き戻す

訳知り顔でにこにことこちらを見つめるひかりと目が合い、思わず苦笑が漏れてしまう。


わずか数秒、ただ豆を挽いているように見えていたはずだ。

めったにバレることはないはずなんだけど。


(まいったなぁ)


へらり、愛想笑いを返し、ぼりぼり左手で頭をかく。


「それで、やめるって言いに来たわけじゃないんでしょ?」


「やめなーい!」


即答。

指を一本立てて、くるっと回す。


「ここでやめたら逆に怖くない?

変に勘ぐられる方がイヤじゃん!」


まあ、そういうものなのか。


「じゃあさ」


挽いた豆をミルから取り出し、フィルターに移しながら話を続ける。

細かいものの中に荒いものも混ざっている。

大きさがばらばらだ


「公認に頼めばいいじゃん」


とたん、ピキッとひかりの表情が凍り付いた。

忙しなく視線を泳がせ、あわあわと言葉にならない音を発する。


しばらく立ったり座ったり、落ち着きなく動き回る。

意趣返しとばかりににこにこ見つめてみれば、それに気づきごほんと咳払いをして改めてスツールに座りなおした。


真っ赤な顔で姿勢を正してこちらを見るひかり。

おそらくカウンターの向こうで足が届いていないのであろうことを想像し、座るというより『よじ登る』と表現するほうが合っている気がして、そういえば昔から小さいことを気にしていたなぁと思いを馳せる。


「ふふ、」


俺が何を考えているかを察したのだろう、お行儀よく座りなおしたひかりはほんのり顔を赤らめたまま、頬を膨らませ睨みつけてくる。

わざとらしいその表情はどこかあどけなく、懐かしさを覚えた。


「そんな意地悪をする子に拒否権はありません!」


ない胸を張って力強く俺を指差し言い放つひかり。

断られる可能性を微塵も感じられない信頼を向けられ、否と言えるわけもなく。


「わかったよ。」


わざとらしく肩をすくめ、仕方なくそう答えるしかないのでした。



「ねぇねぇ曖ちゃん。」

「んー?」


「豆こぼれすぎてミルにほとんど残ってないよ?」

「........あは、あはは」


(――ネットで見た通りやったんだけどなぁ)


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